リレーコラムについて

コピーライターになるまでも遠回り、なってからも遠回り 第1話

山内弘基

はじめまして。“災いネタの宝庫”西村麻里さんより、
まるで緊張感のない打ち合わせをする男
(彼女のリレーコラム最終回を見てください)
として紹介された山内弘基です。
1週間、リレーコラムをやらせていただきます。
その第1回は、コピーライターの存在すら知らずに他業種に就職を決めてしまった話。
つまりは、遠回りの始まり始まりといった内容を書きたいと思います。
やばい!いざ書くとなると、自分が緊張してきた。

それはコピーライターブームが訪れる前の80年秋のこと。
大学4年生だった私は、そうした職業があることすら知らず、
とにかく銀行などを中心に受けまくり連戦連敗の日々を続けていました。
見るに見かねたゼミの教授から「私の顔がきくからなんの心配もない」と紹介された某企業にも、
なんの心配もしなかったにもかかわらずあえなく不採用。
それってゼミ始まって以来の汚点だったらしいです。

「それなら俺の実力で決めてやるぜ!」そう決心をするわけがない私は、
「教授のコネが駄目なら、親のコネで決めてやるぜ!」と固く誓ったのでした。
それから私の(正しくはわが家の)就職活動は一変しました。
息子のために、あちらこちらに就職活動をする親。
それを陰ながら応援する私。主客転倒もいいところです。
大量得点をとられた先発(私)の後をまかされた2番手ピッチャー(父親)、
しかも勝ちゲームに持っていけというなんとかジャパンのような無茶苦茶な起用です。

父親の帰りをじっと家で待ち、「今日どうだった」と聞くバカ息子な私。
「部長まではおさえた」と言う父に、
「役員クラスをおさえないと危ない」と突き放す超バカ息子。
よくぞ勘当されなかったものです。父よあなたは偉大だ!っていうか寛大だ。
けれど、なすすべのない私は、とにかく親の尻をたたきまくり、
なんとか地元の某百貨店に採用されたのでした。

紳士服売場に立ち、颯爽とスーツを売りまくる。バイヤーとかけあう。
そんな姿を勝手に想像していた私に待っていたのは、おもちゃ売場への配属という現実。
ガキいやお子さま相手に笑顔と敬語をふりまく日々の始まりです。
それでもゲーム売場やガンプラのあるプラモデル売場担当なら、まだガマンもしたでしょう。

ところが、まかされたのは「カブトムシ」売場で、まずは幼虫から売っていくのだと言う。
成虫ならまだしも、あの白くぶにゅぶにゅした幼虫の世話をする毎日。
親が見たら泣くぞ。入社前から親泣かせだったバカ息子の私も泣くぞ。
そんなある日のことです。保安から万引きの子供をつかまえたから、
盗品を取りにきてくれという連絡が入りました。
ガンプラかなんかだろうと思ってた私に、
「ほら、それ。受け取って」と指さされたのは、なんとカブトムシの幼虫。
なんでもポケットの中に入れてたのを見つかってしまったらしいのです。

仕方なく幼虫2匹を両手で受け取り、従業員用エレベーターに乗り込んだ自分。
途中から乗ろうとした女子店員は、悲鳴をあげて降りていきました。
おもちゃ売り場は最上階。1分が10分にも感じられたひとりきりのエレベーターの中で、
「こんな会社やめてやる」と堅く誓ったのでした。 

ちょうどその頃です。コピーライターブームが訪れ、私はその仕事の存在を知ってしまった。
そして親泣かせは、さらに続くことになるのです。(第2話に続く予定)

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