リレーコラムについて

ヤクザ

廣畑聡

「兄ちゃん、どこ探しとんじゃワレェ。」

暗い夜道で、僕はヤクザ屋さんに
怒鳴られていました。

大学時代、ピザ屋で宅配のバイトをしていた時のことです。

かなりの方向オンチの僕は、
届け先までの地図を頭に叩き込んだつもりで、
ピザ屋を出ました。

が、やはりそこは生粋の方向オンチ。
道の暗さもあいまって、おもいっきり迷っておりました。

一本の道を、猛スピードで行ったり来たりしていた時、
突然ヘッドライトに一人の巨漢が・・・

それはもう、見るからに「本物」でらっしゃいました。

冒頭の台詞を至近距離で吐かれた僕は、
「は、はい。○○さんのお宅を・・・」
と答えましたところ、完全にかぶせ気味に、
「ここじゃ、ボケェ」と。

「す、すいません!」
「お前上から見とったら、何回行ったり来たりしとんじゃボケェ」と。

詳しい場所は恐ろしくて言えませんが、
その一帯は、いわゆる本物の方々が
けっこう住まれている地域でして、それはもう
本物であることは疑いの余地もありませんでしたし、
もちろん、かなりの豪邸でした・・・。

当時は「宅配30分」時代。
怒るのも無理はなく、僕は必死で、
誠意を見せて謝りつづけました。

どれくらい謝っていたのか。
5分くらいでしょうか。
なぜだか急に、空気が変わってきたのです。

「まぁ、兄ちゃん。
よう見たらエエ顔しとんのやから頑張れよ。」

「お前なかなか、見込みあるやないか。」

「若いやつにしては珍しい。」

まったく意味は分からないし、
ピザひとつで、なんやねんこのアップダウンは!
などと思いつつも、とにかく新しいピザをお届けすることだけ約束して、
僕はすんなり解放されたのでした。

これが本物ならではの掌握術なのか?
それよりもしかして俺ってエエ顔なんか?
などと色々考えましたが、答えは出ず。

誠意はちゃんと汲んでくれる。
それが本物ってことなのかもしれません。

さすが、本物。

ピザを届け直したとき、玄関に出てきたのは
ネグリジェ姿の素敵なお姉さんでした。

さすが、本物。

えー、明日は授賞式です。

「どこがエエ顔」やねん!
とお声掛けいただけると幸いです。

NO
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名前
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