祖父の骨壺
はじめまして。
同じフロアの澤田さんからバトンを受け取りました、
電通の小野と申します。
1週間、どうぞよろしくお願いいたします。
コピーライターとしてはありがちかもしれませんが、
小さいころから、文章を書くのが好きな子どもでした。
きちんと言うと、会話がうまくできなくて、
字に書いたほうが自分の気持ちをうまく伝えられる、
そんな子どもでした(今でもそうかもしれません)。
だから、小学校2年生の時に
ガンに倒れた祖父からもらったワープロは、
Windows95が家にやってくるまで
片時も離れられない、親友みたいな存在でした。
そんな祖父に関して、忘れられない思い出があります。
ワープロをゆずってもらった直後、祖父は亡くなりました。
お墓にお骨を納める、納骨式の日。
これから行われることを、お坊さんが説明します。
「それでは、お経を読ませていただきます。
●●さん(祖父)の魂がお骨から離れて、
安らかに極楽浄土へ行けるよう、
みなさんで、お祈りしてあげてください」
読経がはじまり、素直な私は懸命に手をあわせました。
「バレンタイン」のことを
「バランタイン」だと思っていた祖父。
将棋を指す時には、駒落ちも手加減もせず、
負けた私をなぐさめるどころか、
「負けたのは君だ!」と、何度も勝ちほこってきた祖父。
家族の誰にもあまり似ていないのに、
なぜかリンカーンに似ていた祖父。
そんな祖父が「極楽浄土」に向かって
ひとり歩く様子を空想し、
私はちょっと泣きそうになりながら、成仏を祈りました。
読経が終わり、お墓にお骨を納める時間になりました。
すると突然、お寺の人が何かに気づき、
あたりがザワザワし始めます。
次の瞬間です。お寺の人が申し訳なさそうに
喪主である祖母のもとにやってきて、こう言いました。
「すみません!
お骨を・・・間違えました!」
えっ。
固まる一同。
じゃあ、私が手をあわせていたのは、どこの誰!?
両親も弟も親戚も。その場にいた全員が、そう思ったといいます。
進行の都合、なのでしょう。
さきほどの読経は1時間あまりあったのに、
結局15分ほどの「省略バージョン」(しかもお坊さんのみ)で済まされ、
お墓に納められた、祖父の骨壷。
そんなに簡単に済むなら、
私の祈りは、一体・・・
わずか8歳にして、
「信仰」というものが
よくわからなくなってしまった瞬間でした。
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