リレーコラムについて

コピーライターということ

平山浩司

新書大流行の昨今だが、当りは少ない。暇つぶしの域を出ないものがほとんどで、新書にそれ以上の内容を求めるほうが無茶なのだろう。そんな中で、『音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉』中央公論新社、は拾い物だった。著者は岡田暁生氏。坂本龍一氏がNHKで音楽の歴史をワークショップ方式で紹介するシリーズ番組で見かけ、その厳つい風貌と言説が気になったため新書を手に取った。この本は、音楽の本でありながら言葉のほんでもある。音楽と言葉。相反するように思えるこの2つが意外にも、お互いを照らす。音楽は言葉の秘密を浮き彫りにし、言葉は音楽の正体をあらわにする。ここで紹介したいのは、「わざ言葉」と筆者が呼んでいる言葉の件。指揮者が演奏者に何かを伝えるために使う言葉は独特のもので、しかしある伝統の中で受け継がれてきた言葉だと言う。そして、それは日本舞踊の世界で、お師匠さんからお弟子さんに指導するときに使われる言葉と似ているらしい。たとえば踊りの、ある型を伝える言葉は、「落ちてくる雪を手のひらで受けとめるように」といった具合。そうとしか伝えられない身体言語。あるサークルの中でしか理解しあえないという点では、わざ言葉は排他的だが、日常言語が一見理解しあえたように思わせながら実はそうでない、という欠陥を考えると、ここはトレードオフなんだろう。とにかく、僕は20年以上ジャーゴン(あるサークルでしか流通しない専門用語、特権的言語)というものを批判的に見ていたけれど、初めてその肯定的な側面に気づかされた。

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