父の言葉
「おまえのことは、愛していなかった。」
12歳の時、父から受けた言葉です。
父は、暴力をふるう人でした。
眠っている私の腹を蹴ってベッドから落としたり、
刃物を私の首に当てながら
狂ったように怒鳴ることもありました。
父に殺されるかもしれないと恐れる一方で、
私は父から愛されたいと願っていました。
父は顔立ちの美しい人でした。
笑うと くしゃくしゃの顔になるところが素敵でした。
肩車、セミとり、魚釣り、海水浴、ドライブ。
思い出の大半は、あたたかなものです。
一緒に遊んでくれたときの子どものような無邪気さが
父の本当の姿だったのではないでしょうか。
そんな父の暴力は
まさに、堰を切ったような、という印象でした。
よけいなものを、たくさん抱え込んでいたのでしょう。
男として、父として、威厳を保とうと
ムリをしていたのではないか、と。
母には「女は男を立てるべきだ」と言っていました。
そんな固着観念から、自由になればよかったのに。
私には「冷静にオレを観察するな」と言っていました。
子どものまなざしに怯えることなどないのに。
家の責任から逃れるように、父は次々と女性に走りました。
モテると思うことで自尊心が保たれていたのかもしれません。
母は愛想を尽かし、ついに、離婚。
そのとき出たのが「愛していなかった」発言です。
暴力の痛みなんて、すぐ消える。
けれど、言葉は残る。
父の言葉は、
「父からも愛されない存在価値のない子」という
メッセージにすり代わり、私の心に刻まれました。
心の柱となる親の愛を片方なくしたまま
私は10代、20代を過ごしました。
死ぬことばかり考えていました。
父が私の人生に与えたダメージは計り知れません。
恨まれてもおかしくない。
でも、子どもというのは不思議なものです。
そんな父を、今では許しています。
あの言葉は、家を追い出された際の
やけっぱちの言葉だ、と気づけるまでになった。
愛しているからです。
私は、世の中の、子どもに暴力をふるってしまう親たちに伝えたい。
子どもは、あなたを愛しています。
無条件の愛です。
どうかそれを信じてください。
そして、
暴力をふるいそうになったら、
そのことを思い出してください。
ひどい言葉をかけたとしても、
いつからだって間に合います。
やりなおしてあげてください。
最初は拗ねたり、拒んだり、
それこそ暴力で返してくるかもしれませんが
やがて子どもは、あなたを許すと思います。
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