永友くん
来週このリレーコラムを引き継いでくれるのは、永友くんです。
永友くんは最近会うたびにちゃらくなっていくのですが、それはまあいいや。
彼とはもう古いです。
はじめて会ったのは14、5年くらい前。
場所は西武ドーム。
当時はまだ西武球場と呼ばれていましたが、
毎年夏になるとそこで渡辺美里がライブをしていました。
今でもやっているのかな。よく分かりません。
チケットが余ったという知り合いに誘われて、
ぼくはそのライブに一度だけ行ったことがあります。
そのとき待ち合わせ場所の池袋駅で、
その知り合いに紹介されたのが永友くんでした。
ぼくはそういう場所に行っても静かに聞いているタイプなのですが、
永友くんは、ステージに向かって「みさっちゃーん!」と何度も声を張り上げ、
一曲終わるたびに誰よりも早く拍手をするタイプでした。
なんかその必死さがおもしろくて、ぼくは彼と話すようになっていました。
そのときの永友くんはまだ髪の毛も染めてなかったし、
腕にじゃらじゃらいろんなものを付けていない純情青年でした。
「おれいつかみさっちゃんの曲の歌詞を書きたいんだよね」
ライブ終わりに入った池袋の安い居酒屋で、永友くんは熱く語っていました。
「いまコピーの勉強してるのは、最終的にみさっちゃんの力になるためなんだ」
ためしに永友くんが新人賞をとったエドウィンのコピーたちを並べ、
歌詞風に整えてみます。タイトルは仮に「503」。
503
試作品があがってくると
その場でみんなパンツになって穿きかえて
品評会が始まる 謝罪に出かける時は
スーツを着させていただきます
禁煙コーナーはありません
エドウィンの営業車のナンバーは すべて503
つくっている時は 大人の顔になる
できあがった時は 子供の顔になる
つくったジーンズは 墓場まで持っていきたい
禁煙コーナーはありません
エドウィンの営業車のナンバーは すべて503
するとどうでしょう。
読み進めるうちにいろんな渡辺美里の姿が浮かんでくるではありませんか。
くわえ煙草でミシンに向かっている美里。
試着している美里。スーツに着替え謝罪にいく美里。
営業車を洗っている美里。
どの美里も、いきいきとしてまぶしいほどです。
あの夏、西武球場では見ることができなかった美里が、
この歌詞、いやコピーのなかには生きています。
永友くんが渡辺美里のために、渡辺美里が歌うことを前提として、
コピーを書いていることがお分かりいただけたでしょうか。
好きな言葉から、間の取り方、彼女が世の中に伝えたいメッセージまで、
渡辺美里のすべてが実によく勉強され、
その愛が押し付けがましくならい程度にほどよくちりばめられているのが、
永友くんのコピーなのです。
というのは、もちろん全部口からでまかせです。
渡辺美里好きなのはぼくで、
永友くんはたしかサザンオールスターズ好きのはず。
いつだったか、好きな音楽を尋ねられた永友くんが
堂々と「サザンです」と言ったとき、ぼくは衝撃を受けました。
ビートルズとサザンオールスターズの音楽は、
人として生まれたからには、日本人として生まれたからには、
好きとか嫌いとか関係なく刷り込まれていくものだと思っていたので、
あえてサザン好きを宣言したことに驚いたのです。
冒頭にも書きましたが、今の永友くんはちゃらいです。
エグザイルみたいな格好で街を闊歩しています。
それなのに好きな音楽を尋ねられると「サザンです」と答えるあたりが、
なんとも憎めない永友くんです。
先ほどの「503」も、桑田佳祐が歌うことを前提で読んでもらうと、
また違った味わいがあるでしょう。
では、来週、永友くんよろしくお願いします。
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