リレーコラムについて

悔しいことも

阿部広太郎

悔しさまみれの4ヶ月でした。

2010年6月。
人事からクリエーティブに異動して丸一年。
僕は、焦っていた。

同期の誰々が賞をとった。
書いたコピーが世の中に出た。
CMの企画がクライアントに通った。
意識しなくても耳に入ってくる。
対して、これといって何も結果を残せていない自分。
なんとなくわかったこと。
コピーがうまくなるには、コピーを書くしかない。
そして僕にはその経験が圧倒的にすくない。
このままじゃ、ほんとこのままで、終わってしまう。
変わりたいなあ。うまくなりたいなあ。
そんな心の叫びに突き動かされて、
宣伝会議の専門クラスに申し込んだ。

谷山・井村・吉岡・照井クラス。
生徒は、事前課題をクリアした36名。
第一回目の授業は、いまでもよく憶えている。
すこし前まで自分は、
こういう授業を後ろで見守ってる側だったのに。
いまは自分が席に座ってるんだな。
そんなちょっとしたわくわくが霞んでしまうほどに、
クラスには緊張感があった。
そりゃそうだ。
みんなここにチャンスを掴みに来てるんだから。
成績優秀者には、東急ハンズの
ポスター制作の権利を与えられる。
それで賞を獲れるかもしれない。
実際昨年はそれでTCC新人賞を獲っている人がいた。
さささーとクラス全体を見渡してみる。
みんな意志の強そうな表情をしていた。

毎週、必死だった。
仕事。課題。仕事。課題。仕事。課題。
たいていの金曜夜は、会社か、ファミレスで朝までコース。
谷山さんの授業の座席は成績順で決まる。
いいコピーを書いた人が、いい席に座る権利がある。
その明快な基準に、やる気が出た。
クラスにはいろんな人がいる。
僕のように広告会社で
クリエーティブの仕事をしてる人もいれば、
クリエーティブに転局するために来ている人、
制作会社の人、コピーライターをめざしてる人。
みんなほんとにほんとにコピーがうまくて。
前の席にはなかなか座れなかった。
なんかこう、もがいても、なかなか、ダメだった。

そんな時だ。

「電通だけどたいしたことないね」

授業後の、居酒屋中西で、
クラスメイトにそう言われたのは。
心にじわっと汗をかく。
何も言い返せなかった。
その通りだったから。

やっとわかった。
電通でクリエーティブでやれている重みを。
腹の底から理解できた。
肩書きだけの奴になりたくない。
もっともっとがむしゃらになれ自分。
このまま、終わる訳にはいかない。

でも。
そんなに人生はうまくいかない。
東急ハンズへの提案をかけた最終プレゼン。
もうね。ぜんぜんダメでしたよ。
なんとしても掴みたかったチャンスは、
するすると手のひらからこぼれおちていった。
最終成績は36人中、12位。
悔しさで、くるしかった。

修了式後の打上げ。
異様に味の薄い中西のハイボールを、
何杯も何杯も飲みながら心に固く決めた。

もう書くしかない。

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