カンヌの丘サーファー
地方でCMをつくりながら、
目標はカンヌに置いていた。
毎年、有楽町朝日ホールで行われる
カンヌの入賞作品研究発表会。
1999年、まだYouTubeもない時代。
ここしか、学生がカンヌを知る場所はなかった。
初めて観たとき、世界のフィルムに勝手に打ちのめされた。
長野に行ってからも、この上映会だけは毎年通い続けた。
過去作品を知りたくて、神保町の古書店街へ。
誠文堂新光社が60年代~70年代に出していた
『ブレーン別冊 世界のTV・CM』シリーズを
探しては買い集めたりした。
長野から、カンヌ。
直線距離なら、東京よりちょっと近い。
オリンピックだって招致できた土地だ。
いつかきっと、カンヌも微笑みかけてくれるはずだ。
社内の人を集めて、カンヌの作品上映会もやった。
『広告批評』が毎年発行する
「世界のコマーシャル」特集号を片手に、
カンヌ上映会で手に入れた情報を必死に共有。
カンヌに行ったことがない僕が、上映会。
これじゃ完全に丘サーファー状態だ。
「カンヌ詐欺」という言葉が頭をよぎる。
あの時、集まってくれたみなさん、
カンヌに行ったこともない僕の話に
耳を傾けていただき、ありがとうございました。
長野で過ごして6年目、
転職の機会は突然やってきた。
先に転職した先輩の紹介で、
面接を受けることになった。
すっかり長野の人になりつつあった僕は、
六本木の高層ビルから見える景色に、
山が見あたらないだけで、心細くなっていた。
面接開始。
目の前には、カンヌの審査員を務めたECDが。
詳しくは緊張して覚えていないけど
国際広告賞について質問したと思う。
1を聞いたら、100返ってきた感じ。
圧倒されたけれど、決意も固まった。
転職先の会社では、新人研修の一環で
ECDと新人による「世界クリエイティブ塾」という
社内の集いが定期的に開かれていた。
世界のクリエイティブを学べる!
中途の僕に、参加資格は本来ないはずだったが、
「その会はどこでやっているのか」と、
廊下を走り回っていた僕の姿を総務の方が発見し、
オーバーエイジ枠での参加が認められた。
3年後、僕はその塾の副塾長になっていた。
史上初の、カンヌに行ったことがない、
丘サーファーの副塾長が誕生した。
でも、人間、何でも言い続けることが大切だと思う。
去年、念願のカンヌに行かせてもらうことになった。
(「面白いからあいつはもう少し丘サーファーの
ままでいさせよう」、という恐ろしい声も聞いた。)
はじめてのカンヌ。
会場の熱気も、表彰式の眩しさも、
受賞できない悔しさも、
丘サーファーのままではわからなかった。
分析はとても大事だけれど、
呼吸することはもっと大事だ。
毎日4時ぐらいまで人と話して、ちょっと寝て、
また9時から閉館ギリギリまでスクリーニング。
カンヌで、寝るだけに使う時間が勿体なかった。
カンヌが全てじゃないけれど、
カンヌ、カンヌと騒いできたおかげで
たくさんの方に出会えた。
カンヌじゃないけれど、海外の広告賞も獲れた。
今まで巻き込んでしまったみなさん、
ワガママばかり言ってすみません。
そして、今週はカンヌWEEK。
今年は、一緒に苦楽を共にしているプロデューサーと、
クリエイティブ秘書の二人が行っている。
二人のために慌てて描いた、「僕の見たカンヌ」を
最後に載せておきます。
行ったことのある人にとっては、
「そんなの知ってる」な情報かもですが
いつかカンヌに行く人の、何かのお役に立てれば。
もちろん僕も、
まだまだカンヌ、カンヌと騒いで仕事します。
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