(やっと)コピーのこと
30歳になってから、
肩書きに「コピーライター」がついた。
それまで、肩書きがないのをいいことに、
イラストも書けば、コピーも、企画も、
撮影の弁当係も、何でもやってしのいできた僕にとって、
この肩書きはプレッシャーだった。
コピーライターということを
意識しすぎてしまって、
どう書いていいのかわからなくなった。
そのぎこちなさは、
勝手に得意だと思い込んでいた
CMの企画まで書けなくさせてしまった。
ある企画会議。
時間をもらったのに、
コピーも企画も出せなかった。
CDからは「長野に帰れ」と最後通告。
…でも長野は実家じゃない。
もう、家も引き払ってしまっている。
でもここで「実家は埼玉です」なんて言ったら…。
今では、みんなが笑い話として聞いてくれるけれど、
その時は必死だった。
コピーも企画も書けない自分が不甲斐なかった。
ぜんぜん書けないのは、
うまく書こうと思ったから。
慌てて書こうと思ったから。
落ち着いて、視点を見つけて、どこまでも粘る。
ここで頑張らなければ駄目だと思った。
番組制作の時と一緒だ。
何百本書いたかわからないコピーの束から
CDが選んだコピーは
「昨日の私と思うなよ。」
もちろん、コピーはクライアントのために書く。
けれど、自分のことを言っている気がした。
コピーは今でも決して上手くはないけれど、
あの時のことを思い出して、背筋を伸ばしている。
新人賞が決まった時、CDは朝まで祝ってくれた。
帰り道、気づくと僕は、恵比寿ガーデンプレイスの
動く歩道の横でひとり目を覚ました。
人生は動く歩道のようにはいかない。
けれど、頑張って歩けば、動く歩道より早く前に行ける。
と、よくわからない感慨にひとりふけりながら
始発を待って帰ったのでした。
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