前ピン、奥ピン
眠る前、5才の息子に絵本を読み終わると、俺は彼に宿題をひとつ出す。
「このお話は、一言でいうとどういう話?」
これを考えることで、息子は話をもう一度振り返る。
彼の心の中に何が残ったのか、親も知る事ができる。
シンプルだが、深いコミュニケーションになるのだ。
先日、「ももたろう」(文・松居直、画・赤羽末吉)を読んだときも、俺はこの質問をした。
桃太郎のストーリーは、あらゆる脚本のお手本といわれることがある。
『スターウォーズ』も『七人の侍』も、つきつめれば桃太郎と同じ話だ。
クリエイターのバイブルともいえる桃太郎、これを一言でいう。質問にも力が入る。
「このお話は、一言でいうとどういう話?」
息子はこたえた。「桃太郎が、犬や猿やキジと出会えるお話」
俺は驚いた。
桃太郎は仲間を集めて鬼に復讐する話だと思っていたからだ。息子にとって後半の鬼退治はどうでもいいことで、この話の肝は仲間との出会いなのだ。
子供にしか見えないことがある。俺は心が洗われるような気持ちになった。
うれしくなった俺は、すぐに姉の娘である、可愛い4才の姪にも同じ質問をしてみた。
「桃太郎は一言でいうとどういうお話?」
彼女はこたえた。「桃太郎が鬼をぶっころす話」
話の前の部分にピントを合わせるか、奥にピントを合わせるか。
息子は前ピン、姪は奥ピン。
いま息子は前ピンで親を喜ばせてくれた。だが、こと人生の場合、奥ピンで見ているタイプの方が見通しがたっていて「伸びしろ」を計算出来ているのではないか。
姪のこたえには、そんなパワーも感じる。
男女の差、なのかもしれない。男は前ピン、女は奥ピン。
いずれにしても、物事のどこにピントを当てるかの個体差が、人生のちがいになっていくのは間違いないだろう。
てなわけで、大先輩河西智彦さんからバトンを引き継いだ博報堂関西支社田中幹と申します。
CMプランナーと、二児の父親をやってます。
宜しくおつきあいお願いいたします。
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