彼らの寝室
ミイラと寝たことがある。
と言ったら、驚くだろうか。
いまから20年以上も前の夏、カナダを旅したときのことだ。
恐竜の化石を見たくて、トロントの博物館を訪ねたが、
旅の疲れと時差のせいでいきなり睡魔が襲ってきた。
それはもう、立っていられないくらい。
どこかでちょっと休もうと思い、
人気のない展示室を探したところ、
運良く誰もいない部屋を見つけた。
薄暗い照明もちょうどいい。
部屋の片隅にある長いすに脇目もふらず直行し、
そのまま倒れこんでぐっすり眠ってしまった。
エアコンがよく効いているせいか、
ひんやりした空気が心地よかった。
どれくらい時間がたったのだろう。
はっと目を覚まし、寝たままの姿勢で
なにげなく左に目を向けると、
!!!!!!!!!!
隣にミイラが横たわっているではないか。
ぎゃっと声にならない声を上げ、飛び起きた。
それは、ガラスケースに納められた、
古代エジプトの男のミイラだった。
茶褐色にひからびた小さなからだ。
目と口だけが叫ぶように大きく開いていた。
あたりをそっと見回すと、あちこちに
ミイラ、ミイラ、ミイラ。
安眠する無数のミイラたちといっしょに、
私は眠っていたのだった。
あのひんやりした空気は、
エアコンのせいだけではなかったのかもしれないな、
とあとから思った。