実家のポケットティッシュ 前編
「アアァン!テメーどうしてくれんだよゴルァ!!」
びび割れたiPhoneを差し出してさけぶ男。
僕はiPhoneよりも、それを持っている浅黒い腕の
立派な彫り物のほうに目を奪われています。
「やめとけよ」
連れの男が少しあきれた感じで声をかけます。
絶賛マジギレ中のTシャツ&ジーパン姿の男と違って、
この方はスーツを着ているのですが、なんというか、
会社にお勤めじゃない感じなのは、
オールバックとヒゲのコンビネーションのせいでしょうか。
「こいつがぶつかってきたのがワリーんだろ!!!」
たしかに、肩がぶつかってしまったのは、
ぼーっとしていた僕のせいでもあります。
もっというと僕を満腹にさせた日高屋のチゲラーメンのせいでもあります。
やっぱり半チャーハン、やめときゃよかったかな…
なんてことを考える余裕など1ミリもない僕。
そして、連れの男のつぎの一言で、
社会人8年目の僕のドロドロ血は、
一瞬にしてサラサラ血へと変化をとげ
サーーーッとわかりやすい音を立てて引いていったのでした。
「この道、監視カメラついてんだろうが」
246沿いのこの道の、
どこに監視カメラがついてるとかついてないとか、
そういうの、把握してるもんでしたっけ。
ごく普通の、おだやかな土曜日の午後のはずだったのに。
僕は思いました。
こりゃもう、逃げんの無理だな。
つづく
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