リレーコラムについて

北の国から その5

井村光明

今年もハロウィンすごかったですね〜。年々盛んになって、ついに経済効果はクリスマスを抜いたと聞いたのですが、本当でしょうか。
アメリカナイズされていく日本を見るにつけ、北の国もそうなっていくのかなぁと思うと、なんだか寂しいですよね。笑
そんなわけで、今週書いてきた北の話も今日で終わりなわけですが、実は、今日の話を書きたかっただけで、今までの4日間は単なる前説だったんです。ごめんなさい、前説が長すぎるプレゼンになっちゃって。僕も眠くなりました 苦笑。
次回はちゃんと30秒に入る企画を持ってきます!

 ファンさんにメールを送って一週間。返事はありませんでした。まあ、そんなもんか・・・。そんなものでした。

 旅行気分の上に日常がすっかりOLしたある日のこと。出社すると、管理部の女性たちが騒然としていました。僕を見ると、「ギャーッ」と悲鳴。
 会社に、平壌からの葉書が届いていたのです。

平壌の消印、手書きのハングル文字、しかし、差出人の名前はファンさんではなく、中年男性の方のガイド、金(キム)さんでした(宛名と差出人だけは漢字だったのです)。
ガッカリした僕でしたが、管理部の女性たちはカリカリと、いやガリガリ怒りをぶつけてきました。旅行に行く前から、「北朝鮮では携帯を預けるというが、携帯から会社の情報を抜かれたらコンプライアンス的にも問題なのではないか」等と、僕が行くことで、会社の私たちに迷惑がかかったらどうしてくれるんだと、チクチク反対されていたのです。

「あれ程言ったのに、どうして会社の住所を教えちゃったんですか!」。

まるで今にも拉致される、もしくは住所を知られたことで赤坂のここにテポドンが飛んでくる、と言わんばかりのパニックを起こしていました。

でも、おかしいな、と思ったのでした。さんざん言われていたので、テポドンが飛んでこないように、勤務先を、僕が当時いた博報堂クリエイティブヴォックスという子会社ではなく、住所が違ってビルも丈夫そうな、ただの博報堂にしていたのです。しかも部署も書きませんでした。まあ、テポドンの前では百メートル違った所で一緒ですが 笑。
しかし、目の前の葉書の宛名には、一言も言ってないはずの「クリエイティブヴォックス」がちゃんと書いてある。なぜだろう・・・。ファンさんへのメールを会社のPCから送ったからなのか?それにしてもメールで返せばいいものを、簡単に調べられるとは言え、わざわざ葉書で送ってくるだろうか?

「これは何かの警告に違いない!」

と、管理部はどんどんヒステリックになっていきます。
僕は安心させようと正直に説明したのでした。

実はファンさんという女性を好きになり、会社のPCからメールをしたから住所が解ったのではないか。そして、いくらなんでも危ない文面なら誰にでも見れる葉書にはしないはずで、内容はおそらく、民宿に泊まった後のお礼状のようなものか、あるいは僕がラブメールを出したため、「うちのファンは気持ち悪いと言っている。止めてくれないか」といったことではないか。
落ち着かせようと、極力面白く話してみました。

しかし、ファンさんの名前を聞いて、当時僕が仕事で担当していた商品の名前と非常に似ている、と、再び大騒ぎ。

「やっぱり!だからだ!もう何もかも調べられているんだ!!」。

おいてめえら!やっぱり、って何だよ?!いい加減にしろ!
とは言えず、日本代表も平壌で試合することだし大丈夫、となだめたのでした。

 しかし、彼女たちが怖がるのも無理はありません。葉書の裏には物々しい、銃剣をこちらに向けた兵士の絵のプロパガンダ。そして、手書きのハングルの文面には、「!」が多用されているのです。
どう見ても、「よお!井村サン!元気!?平壌の俺たち!元気だよ!!」と書いてあるようには想像し難い。
韓国や北の人には申し訳ないのですが、知らない文字にたくさんの「!」が組み合わされていると、どうしても不穏な気分になるものです。ちなみに、クリエイティブヴォックスには韓国人のコピーライターの女の子がいたのですが、国民感情を思うと、訳して、とは言えませんでした。
 葉書は謎のまま、ひと月が過ぎました.

 ファンさんから返事も来ず、葉書の意味も解らないままひと月が過ぎた頃、写真でも見せ合おうと、山田さんと塚ちゃんと集まりました。
会うのは旅行以来でしたが、メールのことも葉書のことも、もちろん伝えてありました。

「アレどうなりました?その後変なこと起こってないですか?」と山田さん。
いやあ、返事も来ないし、謎のままなんだよ、と、僕。
すると、

山田さん 「ウソ〜。まだ気づいてないんですかぁ?」
僕    「?」
山田さん 「どう見たって、私の字じゃないですかぁ(爆笑)」

えっ・・・・・・・・・
・・・何て書いてあるの?

山田さん 「だって私が書いたんですよ〜デタラメに決まってるじゃないで
     すかぁ(笑)。○とか棒とかテキトーにそれっぽく書いたインチ
     キですよぉ」

・・・・・・おいっ、山田!やーまーだっ!!!ここはひとまず俺の気持ちは置いておく。でもな、お前、当局にはどう見えると思ってんだ!インチキなハングルをキムさんの名前で日本に出すなんて怪しすぎるだろ!それこそスパイ行為と思われたら、どうするつもりだったんだ!しかもその時俺たちはまだ平壌にいたんだぞ!!お前だって平壌のホテルじゃ1人部屋は怖いってビビってたじゃないか!今、当局が目を付けるとしたら、宛先の俺一人だぞ!会社じゃみんな、今にもテロリストが来るんじゃないかとビビってて、ファンさんとファン○が似てるとまで頭おかしくなってんのに!何やってんだ!!
と、管理部に責められた鬱憤もぶつけてみたました、が、

山田さん 「エヘヘ」 と、アニメ声。

 コラム一日目に、「山田さん、遂にどこかに拉致されちゃったのかなあ・・・遂に、と書いたのには理由があります。心配だなぁ」と書きましたが、解っていただけたでしょうか。リレーコラムが不自然な終わり方をするだけで、遂に致命的なことをやらかしちゃったんじゃないか、と心配になる山田さんなのです。これを言いたい、ただそれだけの為に、一週間書いてきたという訳でした。
 お付き合い頂き、本当にありがとうございました。

 ちなみに、あれから3年。終にファンさんから返事が来ることはありませんでした。
この五月、僕は異動になり、メアドが変わることになったので、
「メールアドレスが変わりました。お手数ですがご登録お願いします」と、しれーっとメールしてみようかな、と思ったのですが、止めておきました。
 
でも、今でも、一生のうちもう一度会いたい人の第3位。
ファンさんは、今の所僕の、最後から一番目の恋、なのです。

 そういうわけで、このリレーコラム、いっそ山田さんに戻してしまおうかとも思ったのですが、来週は電通の鈴木晋太郎さんです。
山田さんと最初に会った翌年、同じ宣伝会議の講座でご一緒させていただいたのがご縁。AKBに会いたいというだけで、転局試験を受けてコピーライターに、そして先週のTCC授賞式で新人賞!
この調子でいくと、すぐにスターになってしまいそうなので、今のうちに拉致してみました。

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