リレーコラムについて

6か年精勤

村田俊平

6か年精勤―。
何と甘美なる響きなのだろう。

銘酒「100年の孤独」を彷彿させる、
「6か年」という悠久の時間。
セイキンの「セイ」でスマートにやって来て、
「キン!」でメタリックにダイナミックに
締めくくる音の感じ。
いや、いいスピーカーで、
何度もリピートして聞いていたい。

説明が前後しました。
6か年精勤というのは、中高一貫だった私の母校で、
中学と高校6年間“ただの一度も“遅刻、欠席を
しなかったものに贈られる賞で、
いうなれば、出席界の衣笠証明書。
(インフルとかの欠席は除く。)

根っから時間にルーズな上、
あまり体も強くない自分にとって、
この「6か年精勤」というのは、
TCC新人賞にも引けを取らない。
なんなら、紫綬褒章とかには
勝っちゃうくらいの誇らしい称号なのである。
ほら、「しじゅほうしょう」って、
口がグジュグジュ、ってなって言いにくいし。

それが、ただの一度だけ揺らぐ時が来た。
しかも、ゴール目前、高3の3学期。

その日はふつうに間に合う時間に家を出たのに、
バスが遅れ、乗り継ぎの不運が重なり、
結局10分遅れで教室に入った時には、
もう教師が教壇に立っていた。

「ウソの6か年精勤を上げても意味がない」という
教師の謎のマッチョイズムによって、
私の出席簿が初めて、
遅刻を意味する斜線で汚れることに。

地獄に落ちるような気持ちで席に着こうとすると、
不思議なことに、僕の席がどこにも見当たらない。

その時すべてを察した。
教師としてみたら、
50人規模のクラスで、わざわざ、毎回、
「秋谷」「はい」「よし」
「新井」「ふぁい」「よし」
なんて具合に出席を取っていたら
めんどくさくて仕方ない。
だから、空いている席を見つけて、
その座席の生徒が遅刻、欠席であることを把握する。

つまり、一つも空いている席がなければ、
そのクラスは全員定刻通りに全員集合!
に、見える、ってなわけである。

何と美しいアイデアなのだろう!!
級友たちは僕の席を廊下の見えないところに運び出し、
空いた分を何となく詰めてクラスの全員が
そろっているように見せかけていたのだ。

後で携帯、その当時はJ-PHONEを
見返したら、しっかりと級友の川畑から
空席搬出大作戦決行のメールが来ていたのだが、
地下鉄で電波が入らなくて見落としていたのだった。

まぁ、やっていることはズルっていったらズルなんだけど、
クラスのみんなのアイデアと友情に
いたく感動したものでした。
自分の人生の中で一番ぐっと来た”アイデア”と言えば
小さいけれど、これ。

結局、後日、バスでも遅延証明書が発行されることを
聞きつけた母親が、
バス会社に問い合わせ、
遅延証明書を教師にもっていったら、
遅刻は取り消し。
晴れて私は6か年精勤の称号を手に入れるのでした。

…というか、ズルしてほんとに授業に出席してなかったのが、
バレたら、欠席になってたし…。
ズルはするもんじゃない。
ふざけんな!川畑!

ということで、このコラムも遅れないよう
心がけて参りますので、
今週の間お付き合いよろしくお願いいたします。

村田俊平

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