美しき幻
「今度会おう」「今度飲もう」…。
何年前から言ってきたことか。
2015年の盆明け、久しぶりに大学時代の友人に会った。
一人は高校も一緒で、ともに東京で浪人し、
同じ大学の門をくぐることになった、K。
もう一人は、勧誘され成り行きで入った
音楽サークルの同期、E。
僕ら3人はその後、新しくサークルを立ち上げ、
大学4年間の多くの時間を共にした。
一緒に活動計画を練り、
一緒に勧誘遠征に出かけ、
一緒に旅行に行き、
一緒に渋谷や六本木を徘徊し、
一緒に吐くまで飲み、朝まで打ち、
一緒に泊まり歩いた。
いろんなことを話した。
ほとんどが、取るに足らない、くだらない、
下種で卑猥でしょうもない話だったかもしれないが、
他では言えない悩みや野望もコイツらには素直に話せたし、
本気で相談に乗ってくれたりもした。
就職先はバラバラだった。
赴任地も、Kは大阪だし、
それぞれが新社会人として自分のことに忙しく、
だんだんと疎遠になっていった。
Kが早くに結婚したのも、今度は僕が大阪転勤になったのも、
Eが転職したのも要因だったかもしれない。
でもそれ以上に、20代の血気盛んな僕らにとって、
固定された「青臭い過去」よりも、
現在進行形の「刺激的な今」と「掴み取りたい未来」の方が
圧倒的にプライオリティが高かったのだ。
5分遅れで待ち合わせ場所の新橋SL前に行くと、
ヤツらはすでに到着していた。
「すまん、お待たせ」
「おせーよ、シノちゃん」
2人が振り返った瞬間、僕らのまわりの空気だけが、
“あの当時”に戻ったのが分かった。
約4時間、よく飲み、良く笑い、よくしゃべった。
昔話はほとんど出なかった。
お互いの空白を埋めるように、
話題は「今のこと」がほとんどだった。
年賀状やSNSで、それぞれの歩んできたタイムラインと
現状のアウトラインは知っている。
でも、その中身や思いについては、当たり前だがわからない。
SL前で感じた空気は、だんだんと薄くなっていき、
最後は幻のようになくなっていた。
今、Kは某保険会社の支社長として敏腕を振るっている。
Eは好きな音楽の世界に身を置き、
苦悩しながらも前を向いている。
それぞれが家庭を持ち、それぞれが今を生きている。
3本の線は、これから先、交わることはないだろう。
でも、それぞれの位置を確認することはできるし、
共有し合う場を持つことはできる。
「また、集まろうぜ」
また数年後になるかもしれないが、まあ、それでもいい。
でも、必ずな。