ディテール賞賛法
スカーレット・ヨハンソンは、あの足首がいい。
モネは、ピンク色の使いかたが実に上手い。
キリンは、眉間の模様が一番美しい。
・・・これらは、ぜんぶ今適当に言ったことです。
スカーレット・ヨハンソンにも、モネにも、キリンにも、
僕はまったく詳しくありません。
でもお読みになった方は、
「何かこいつ知ってるぞ感」を感じたのではないでしょうか。
ここでのポイントは、
「誰も褒めそうにないディテールを褒める」
ということです。
人でも、作品でも、
僕は褒めるという行為がとても苦手です。
よく、映画とか本とか音楽を饒舌に語れる方、いらっしゃいますよね。
本当に羨ましいのですが、僕にはまったくそれができません。
ありきたりなことしか言えなくなってしまうのです。
この「クリエイティブ」な業界において、
そんなツマラナイことしか言えないことは、すなわち死を意味します。
隠してきた教養の浅さが一気に露呈してしまいます。
そこで苦肉の策として編み出したのが、
この「ディテール賞賛法」なのでした。
この仕事をしている上で「何か褒めなきゃ!」という場面は多々あります。
例えば、CMの仕事。
編集のスタジオで、できたものを見せていただきますよね。
これ、一回見ただけじゃ、よく分からないのです。
でも、監督やプロデューサーの
「代理店の人何か言ってくださいよ」的な空気を、
背後から感じるんです。
そんなときは、取り急ぎディテールから褒めます。
「この照明、さすがですね!」
「この美術の小物、効いてます!」
「このアングルは◯◯監督っぽいですね!」
「あの香盤の賜物ですね!」
とかなんとかと。
アートディレクターとの打合せ、
知り合いのカメラマンの個展に呼ばれた時の会話、
お世話になっている方の舞台、などにも同じテクニックを応用することがあります。
・・・ええ、とても小手先だということは分かっています。
クリエイティブとしてとても表層的だということも自覚しています。
ときに失礼ですらあるということも反省しています。
でも、案外そこから会話が広がることも多いのです。
人は、みんなが気づかなかったところを褒められると、
嬉しくなって語り出す生き物である。
こういう定理すら導き出せる気がします。
新入社員の頃、会社の先輩に、
もし女性のいるお店に行ったとき、
目の前の女性がどうしようもなく褒める場所がなかった場合、
とりあえず肘の内側を褒めればいいんだ。
と教えてもらったことがあります。
肘の内側ほんとキレイですね〜!と。
これには一応理屈があって、
どんな人でも、肘の内側は、紫外線の影響を免れていて、
常にピチピチしているから、だそうです。
意外性のあるところを褒める。
そういえば村上春樹はやたら女性の耳の形を褒める主人公が出てくるのですが、
これもそういう理屈なんでしょうか。
あるいは、オシャレさんほど、小物に気を遣ったりします。
これもそうかもしれません。
この、ディテール賞賛法が、実際の広告制作に応用できるかはわかりません。
が、ひとつの切り口としてはあるのかもしれないと思うのです。
すいません今無理やり広告の話に落とし込もうとしました。
そういえば今思ったのですが、僕、よく先輩に企画を見せると
ディテールだけ褒められることがあります。
これはきっと、根本的には褒めるところないけど
とりあえず褒めといた、的なことだったのでしょうか。
そう思うと、何だか急に不安になってきました。