リレーコラムについて

ダーリンは中国人:「気をつけて」を言いすぎる人

小森谷友美

私はおととしまでの2年間、中国に住んでいました。

出発前、日本に住む家族や友達から
いちばん多く言われた言葉は、
「気をつけてね」でした。

国内でもそそっかしい私が海外で生きていけるのか?
まわりの人は、さぞ心配したことでしょう。
逆の立場でも、相当心配だったと思います(笑)

でも、会う人会う人から、

「テロがあるかも知れないよー」
「水も汚いよー」
「食中毒もあるらしいよー」
「気をつけて、ほんと、気をつけて」

と心配の小さな塊を浴び続けると、
これから中国へ飛び出すワクワクした気持ちが
だんだん萎縮していくのを感じました。

私がいちばん、心配です。
中国人とうまくやっていけるか?
ちゃんと中国語喋れるようになるのか?
万が一、死んじゃったらどうしよう?

まだ見えないことへの漠然とした不安感が
「気をつけて」の言葉によって、
さらに肥大化していくのを感じました。

でも、ふと気づきました。
「気をつけて」と言葉をかけてくれる人は全員、
まだ中国に行ったことがない人だったのです。

確かに、日頃のニュースを見ていたら、
中国は危険な国で、中国人はとても横柄で、
こわい気持ちが募るのは仕方のないことです。

まだ見ぬこわい気持ち、
こわい目に遭って欲しくない気持ちが、
すべて「気をつけて」の言葉になっている。
そう思えるようになりました。

中国に行ってからは、充分「気をつけて」
生活していたのは言うまでもないのですが、
一方で特に助かった一言もありました。

「カバンは絶対、チャックを閉める」
「青信号でも左右見てから渡る」
「大事なことは書面に残す」

これらはすべて、実体験をもとにされたアドバイス。
「気をつけて」だと何をどうすればいいかわからず、
常に気を張って身動きが取れなくなる感じがあるけれど、
これらは具体的でやるべきことが明確です。

どれも当たり前だし基本的なことですが、
おかげで2年間、一度も大きなトラブルに遭うことなく
過ごすことができました。

ちなみに「気をつけて」最多発言王だったうちの母は、
中国での娘の生活を見てから、まったく言わなくなりました。
「気をつけて」を言う人は、
私をいちばんに想ってくれる人でもあったのです。

春、これから旅立つひとへ。
私は「気をつけて」と言いたい気持ちのかわりに、
この言葉を贈ります。

全力で楽しんで!

☆明日へ続きます☆

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