当時の僕はまだ知らない
小学校の頃の愉しみといえば、
月に1回ほどの家族との外食でした。
とはいえ、僕のふるさとは秋田県(のさらに外れ)。
外食といっても、お店も少なく
行く場所は限られています。
そんなある日、
母が美味しいイタリアンができたと聞きつけてきて、
じゃ、早速、そこに行こうと盛り上がったことがありました。
当時の秋田には、
そもそもイタリアンレストランなんて皆無でしたから、
もう向かう車中から興奮の坩堝。
僕「ねぇねぇ。アレ、あるかな?カルボナーラ。
美味しんぼに出てきたヤツ」
兄「うーん、あれは、作るの難しいから、無理かもな。
山岡さんレベルのシェフがいないと厳しいな」
なんて会話をしながら、
店内にはいって、メニューを見ると、あるではないですか。
カルボナーラ。
美味しんぼでしか見たことなかった料理が
食べられるという事実に鳥肌が立ったのでした。
僕「カルボナーラ、美味しいね!」
兄「ああ。卵はちゃんとねっとり麺に絡む。
きっと卵白は使っていない。
美味しんぼに書いてあった通りだ。
ここのシェフはスゴイ人だ」
続いて、
テレビでしか見たことなかったイカ墨パスタがテーブルに。
僕「ねぇ!イカ墨って、本当に真っ黒なんだね」
母「このイカ墨の処理。臭みもないし…。
東京でもこの味はなかなか出せないはずよ。
シェフはイタリア帰りかしら」
と、学生時代に東京に住んでいた母もご満悦の様子。
そして、極めつけはライスコロッケ。
赤いトマトソースの海の中央に、
茶色くそびえる美味しそうな球体。
僕「ごはんなのに、コロッケなの?」
父「ナイフで切ると…なんてこった!
中にあるのは…チーズだ!!」
恍惚。僥倖。至福。
絶頂に登り詰める我が家の面々。
僕「都会人に嘲笑されている秋田にだって
美味しいイタリアンがあるんだね!」
当時、
田舎コンプレックスに悩んでいた僕でしたが(今も?)、
こんなに素晴らしいレストランを有する秋田が
無性に誇らしくなったのでした。
上京を果たした十数年後、この店が、
全国チェーンの「カプリチョーザ」だと気付くことを、
当時の僕はまだ知らない。
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