あそこに猫がいますね、という愛の告白
私には道端に隠れている猫をすぐに発見できるという能力がある。
たとえ雨や夜道で視界が悪かろうと、物陰にひそむ猫をたやすく見つけてしまうのだ。これは車を運転していてもそうで、曲がり角から急に飛び出す小学生やサッカーボール(あるいはその両方)には気がつかなくても、猫の場合は100m先でもその存在に気がつく。そして安全に徐行することができるのだ。
札幌に住んでいた頃は自分でもこの能力に気がついていなかった。どうやら東京に出てきてから覚醒したらしい。東京は野良猫が多いですから。
そんな話は聞いたことがないという私の友人は多いだろう。これは当然で、私はこの能力をあまり人に話したことがない。この能力を聞きつけた秘密結社に拉致されるのを恐れているからとかではない。むしろ猫を集める秘密結社があるのなら多額の寄付金を積んででも入る。結社オリジナルのグッズをバンバン買って友人たちに売りつけることも辞さない。
人に話さない理由は、単に「ふ〜ん」と聞き流されてしまうだろうからである。現にここまで読んできたあなたも「ふ〜ん」と思っていることだろう。
ただ、こうした「隠れ猫」を見つけると私は非常にハッピーな気持ちになる。ドラクエで「ちいさなメダル」を見つけたときのようなものだ。かといって他人さまの家に侵入し「猫ちゃんいるかにゃ?」なんて壺やタンスを覗いたりはしない。念のため。
私がこの能力を打ち明けるのは、心底惚れた相手だけである。たとえ「ふ〜ん」と返されようとも、好きになった人には自分の幸せを分けたいではないか。そんな思いから、猫を見つけては「ここに猫がいるよ。ほらあそこにも!」と健気に言い続けてきた。ちなみにこれまで感謝されたことは一度もない。
かつて漱石は「I love you.」を「月が綺麗ですね」と訳したという。私だったら「あそこに猫がいますね」と訳すだろうな、というどうでもいい話である。
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