椎茸事変
きのこには、人を惑わす力がある。
それは、一見無害に見える椎茸とて、例外ではない。
今回は秋田家の平穏を脅かした、
椎茸事変についてお伝えしたい。
話は僕が小学生だった頃に遡る。
その日、我が家はピェンローという
中華風の鍋を囲んでいた。
椎茸の戻し汁で鶏や白菜を煮込むシンプルな鍋で、
コレが実に滋味深い。
家族みんなが大好きなメニューなのだが、
一方でピェンローをする夜は、そこはかとない緊張感が漂う。
「ピェンローのスープ飲むべからず」という鉄の掟のせいだ。
ピェンローのスープは白菜や椎茸に吸われがちで、
最後に雑炊を作る分が無くなってしまうことがある。
締めの雑炊が食べられないという悲劇を未然に防ぐため
前述の掟が制定され、破ろうものなら罪人扱いなのであった。
そんな中である。
ふと椎茸を食べている母親の方を見ると、
ある違和感に気付いた。
1つの椎茸を食べるスピードが遅すぎるのだ。
大事そうに椎茸を口に運びしばらく箸が止まっている。
これはまるで…。
「あ、スープ飲んでる!!」
僕は思わず叫んだ。
あろうことか母は、椎茸の笠をおちょこ変わりにして
スープをこっそり飲んでいたのだった。
この大胆不敵な犯行こそが、
後々まで語り継がれることとなった椎茸事変である。
20年以上経った今でもこの件について母は冤罪を主張しており、
真相は闇の中なのだが…。
ちなみに最近、
「店主が焼き具合をコントロールするから絶対に網の上の食べ物をいじるな」
というルールの焼き肉屋で
兄が椎茸を勝手にひっくり返して怒鳴られるという
第二次椎茸事変も発生した。
秋田家は、つくづく椎茸に惑わされる運命らしい。
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