リレーコラムについて

メタモルフォーゼしのぶ

古居利康

大竹しのぶさんのエッセイに驚愕しました。
まさかまさかそんなことがあるのかと
なんども読み返しました。

今年の8月、『にんじん』という舞台作品で
14歳の男の子を演じた大竹さん。
「とても変わった肉体の変化を体験した」
らしいのです。それは、とても変わった、
ていどの変化ではありません。

「私の身体の変化。
 それは何と『おチンチン』だった。」

わりと淡々と、でもはっきりと、
そう書いています。「おチンチン」と。

いくら憑依型の俳優と言われる大竹さんでも、
男の子を演じたら、おチンチンが生えるのか。
そんなメタモルフォーゼがほんとに起きたのか。
いやいや600万部以上の発行部数の大新聞に
ご本人が署名原稿で書いているのです。
信じられないけどほんとのことなのです。

演じる人物に100%なりきることはないけど、
その役柄が身体の95%くらい占めることがある、
と、大竹さんは書いています。
(「95%」という表現がこの方らしい。
わずか5%の違いを自己認識できるのは才能です)
そして、自分の中に入り込んだその人物が、
思いもよらないことをしでかす時があると。
たとえばマクベス夫人を演じた時は
人を殺すシーンで笑いが止まらなくなったり。

しかし、『にんじん』で起きたことは、
まるで『リング』の遺伝子配列の変化のように、
現実離れしています。その兆しをご本人も感じては
いたようですが、時々かかるマッサージ師による
施術中に「おチンチン」の存在を指摘され、
はっきり自覚したということです。
このときの大竹さんのリアクションが
なんともチャーミングです。

「わたしはその人の手を取って
 ブラボーと叫びたくなった。」

身体の異変の心配より先に、ブラボー。

「お芝居って面白い。人間って面白い。」

とも感想されています。
この方の場合、芝居への興味は人間への興味に
重なるのです。単なる熱演とか体当たりなんかじゃ
なくて、人間のもっと深くて不思議な場所に
根ざした自己表現なのだろうと思います。

ちなみに、第三者の証言で証明されたその異物は、
27日間の公演が終わった途端、
どこかへ消えていったそうです。

大和ハウスのCMのナレーションを
大竹さんにお願いして12年ほど経ちます。
わたしはもう、この方に一生ついてまいります。

*「 」内はすべて、
朝日新聞に連載の随筆、大竹しのぶ『まあいいか』171
「男の子になっちゃった!?」(2017年9月22日付夕刊)
より引用させていただきました。

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