関西電気保安協会職員の困惑 第一話「広報部 吉田浩一郎の困惑」
吉田浩一郎は困惑していた。
果たしてこんなウェブCMでいいのだろうか。
「これで協会の技術力や高度な専門性が伝わりますか。」
吉田は向かいに座った軽薄を絵に描いたような男に聞いた。
「そういう企画ではないので伝わらないかもしれませんねえ。」
広告代理店の社員だというその男は、ハワイからそのまま来たのかと思うような
派手なアロハシャツという、おおよそ社会人とは考えられない格好で、
薄ら笑いを浮かべながら答えた。
いや実際、薄ら笑いはしていないのだが吉田にはそう見えた。
吉田は問題点を整理しようと企画書の絵コンテにもう一度目を落とした。
ふたりの女性が車に描かれた協会のロゴについて話をしている。
協会のロゴが変わったという今更言うほどのこともない内容だ。
彼女たちの役は役者がやるのだろう。職員が出るのは最後の一コマだけだ。
吉田は大学を卒業してから協会に就職し、ひたすら技術畑を歩んできた人間だ。
日進月歩で進化する電気設備に合わせ、
自らの保安技術を更新する毎日を過ごしてきた。
この国の電気保安の最前線を走ってきた自負がある。
今回の人事異動でなぜか広報部に来たが
根っからの技術屋としての誇りは忘れてはいない。
保安協会は工場やビル、個人宅を訪問し、点検や調査を行っている。
日夜、地域の電気保安を司る組織だ。
しかし縁の下の力持ち的な仕事ゆえにその重要性が伝わっていない。
だからこそ貴重な予算を充ててのCMなのだ。
日々、額に汗する仲間の姿も目に浮かぶ。
「もう少し職員の仕事を盛り込めませんか。」
「ちょっと難しいですねえ。」
色付きメガネを頭の上に持ち上げて軽薄アロハ男が即答した。
少しは考えてから答えてはどうか。せめて考えたフリの多少の間ぐらいとるべきでは。
「バズらないことには見てもらえませんからね、ウェブCMは。」
こちらの要求を入れてその上で見てもらえるようにするのが君らの仕事だろう。
クリエイターなどと横文字でかっこうをつけているが
実際はただの自己満足ではないのか。
「とりあえず次の企画の説明しますねえ。」
まだ次があるのか。
吉田は口まで出かかった言葉を飲み込み、
気を取り直して企画書のページをめくった。
電気を守る。
関西を守る。
それが本職。
NO.2023397
広告主 | 関西電気保安協会 |
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受賞 | |
業種 | 精密機器・産業資材・住宅・不動産 |
媒体 | 新聞 |
コピーライター | 細田佳宏 |
掲載年度 | 2023年 |
掲載ページ | 414 |
細田佳宏ほそだ よしひろ
2020年入会