志ん朝:たまにはまじめに、父のことを話してみようと思う。父は、古今亭志ん生という酒飲みだった。
若いときは絵に描いたような貧乏で、質屋と酒屋を駆けめぐっていた。電車賃がなくても飲んでいた。
関東大震災のときなどは、グラグラゆれてる最中に母を放り出し、近所の酒屋へ駆け込んだ。
「おうっ、酒くれい」
「そこにありますから勝手に飲んで下さい、あっしら、これから逃げるとこなんで。」
それなのに、母はグラグラゆれてる家の中で、ちゃんと父を待っていた。
古今亭志ん生というのはそんな奴だった。
割り切っても 割り切ってもなお、割り切れない心を持っていて、それが、多分、情ってもんだろうな、と僕は思う。
ドライなんて言葉は知らない人間だった。あんまり年をとりすぎて、医者から酒をとめられた。なのに、ある晩、客と飲んだ。
水っぽいねえ、水っぽいねえ、今夜の酒は水っぽいよぉ……
不思議に思った客がふとのぞくと、屏風のカゲで父の弟子が、泣きながら父の酒に水を入れていた。
M:クライスラーのタンゴ
志ん朝:もし、いま、元気な父とひと晩飲めたら、夕焼けに染まったカワラ屋根の下で、こんなビールからはじめてみたい。
麦芽100%生ビール サントリー モルツ ドライでは心にしみない。

NO.8192

広告主 サントリー
受賞 ノミネート
業種 酒類・タバコ
媒体 ラジオCM
コピーライター 中山佐知子
掲載年度 1989年
掲載ページ 44