金鳥小説 夢不来(むしこなーず)
?虫コナーズのCMオーディションに挑む
主婦・近藤幸恵の物語<全十話>?
第八話「練習の虫」 「監督さんが近藤さんの吹っ切れたダンスの
センスに惚れていました」「代理店のプランナー
がキャラクターに個性があるって興味を
持ってましたよ」昨日、電話口から聞こえて
来た賞賛の声がいまだ耳にこそばゆい。
最終選考に残ったー。この際、まずは
虫コナーズでもいいわ。カズちゃんとの格の
違いを見せつけるには逆にうってつけの
チャンスではないか。ここをスタートにする
のも悪くはない。ポジティブ幸恵。
速達で送られて来たDVDには油性ペンで
「ダンス(仮)」と書かれ、再生すると音楽
に合わせて振り付け師らしき人らが踊って
いた。いわゆるデモテープというやつだ。
これを見て練習するようにといういうこと。
幸恵は生来、完璧主義者である(スタイル以外
は)。朝、家族が出かけてからの3時間。鏡の前で
汗まみれのガマガエルのようになるまで、
ひとり黙々と特訓を積んだのである。
「なにこのDVD。ダンス・・・かっこ、仮?」
家族分の目玉焼きを焼いている幸恵の背中越し
に響く長女の声。しまった!「あ、それは
お母さんの・・・」幸恵の声を待たずして白い
盤面はDVDプレイヤーに吸い込まれていた。
「?~虫コナーズ~・・・ここでお腹を大きく
せりだしてトントントン」ご丁寧にダンス
指導入りである。「なんだこれ?」夫が
反応した。ふと頭によぎる家族の承諾、という
単語・・・。だめだ。今日は最終オーディション
なのだ。いま家族を説得する自信がない。
娘は銀行の新入社員研修中、夫も最後の
昇進をかけた大事な時期である。息子に
関しては言わずもがな。きつい反抗期トンネル
は抜けつつあるも、思春期最後の残り
香がぷん。「それはお母さんの・・・友だち・・・
の池田和子さんから貰ったのよ」
とっさの嘘。にしてはうまくいった。夫の合いの手
が効いたのだ。
「おお!あの虫コナーズのCMに出てるっていう
友だちか!これってレアもん映像じゃないの!」
(次回は7月7日掲載予定です)
※ストーリーはフィクションです。
登場人物、団体名等は架空のものです。
KINCHO
ガラスに虫コナーズ
NO.85267
広告主 | 大日本除虫菊 |
---|---|
業種 | 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨 |
媒体 | 新聞 |
コピーライター | 古川雅之 |
掲載年度 | 2013年 |
掲載ページ | 166 |