朝日新聞デジタル/プロメテウスの罠
防護服の男 第三話 250秒 NA:
ギリシャ神話によると、
人類に火を与えたのはプロメテウスだった。
火を得たことで人類は文明を発展させた。
しかし、落とし穴があった。
NA:
朝日新聞、プロメテウスの罠。
シリーズ、防護服の男、第三話。
S:
プロメテウスの罠 シリーズ防護服の男 第三話
NA(みずえ):
私たちは、国から見捨てられたということでしょうか
NA:
SPEEDI(スピーディ)というコンピューター・シミュレーションがある。
政府が130 億円を投じてつくっているシステムだ。
放射線量、地形、天候、風向きなどを入力すると、
漏れた放射性物質がどこに流れるかをたちまち割り出す。
NA:
3 月12 日、1号機で水素爆発が起こる2時間前、
文部科学省所管の原子力安全技術センターが
そのシミュレーションを実施した。
放射性物質は津島地区の方向に飛散していた。
しかし政府はそれを住民に告げなかった。
SPEEDI の結果は福島県も知っていた。
12 日夜には、東京の原子力安全技術センターに
電話して提供を求め、
電子メールで受け取っていた。
しかしそれが活用されることはなく、
メールはいつの間にか削除され、
受け取った記録さえもうやむやになった。
3 月15 日に津島地区から非難した住民に、
県からSPEEDI の結果が伝えられたのは、
2カ月後の5 月20 日だった。
県議会でこの事実が問題となったためだ。
福島県の担当課長は5 月20 日、
浪江町が役場機能を移していた
二本松市の東和支所を釈明に訪れた。
町長の馬場有は強く抗議した。
NA(県の担当課長):
すみません
NA(馬場有):
これは殺人罪じゃないか!
NA(県の担当課長):
…すみませんでした
NA+S:
知らされなかったのはSPEEDI の情報だけではない。
NA:
福島県は、事故翌日の3 月12 日早朝から、
各地域の放射線量を計測している。
同日午前9時、浪江町酒井地区で毎時15 マイクロシーベルト、
高瀬地区では14 マイクロシーベルト。
浪江町の2地点はほかの町と比べて異常に高い数値を示した。
1号機水素爆発の6時間以上も前で、近くには大勢の避難民がいた。
これらの数値は6 月3 日に経済産業省のHP に掲載された。
しかし、HP にびっしり並ぶ情報の数字の中に埋もれ、
その重大さは見逃された。
8月末、浪江町の災害救援本部長、
植田和夫にそれらの資料を見せると植田は仰天した。
「こんなの初めて見た。なぜ国や県は教えてくれなかったのだろう」
菅野みずえはいう。
NA(みずえ)+S:
私たちは、国から見捨てられた
ということでしょうか
NA:
プロメテウスによって文明を得た人類が、
今、原子の火に悩んでいる。
福島第一原発の破綻を背景に、
国、民、電力を考える。
NA:
朝日新聞、プロメテウスの罠。つづく。
S:
朝日新聞DIGITAL
高崎卓馬たかさき たくま
1998年入会