金鳥ロマン小説 ピンクのよろめき
第六話<小俣拓也> 広子のやつ、ピン子おばはんと何かひそひそ話しとっ
たけど、何喋りよったんかが気になる。気になるけど、
アバラが四本も折れて起き上がれん。どういう体重しと
るんや、あのおばはん。
広子も、私情は別にしてええ仕事しよった。籍まだ抜
かんのも、惚れとるからやな。
そやけど、あのおばはん、角曲がるとき、まったく注
意しよらんのかいな。よう今まで事故に遭わなんだな。
まあ、たっぷりおねだりする口実がでけた。むひひ。
にやにやしてると、若い女の看護師が入ってきた。ピ
ンクの「蚊がいなくなるスプレー」をシュッと部屋にま
く。なんやら、バラの香りがしよる。機嫌とっとくか。
夜の外出とかタバコとか、融通きかしてもらわなあかん
からな。きらっと白い歯を見せて「や、ありがとう」と
さわやかに言おうとしておれは
「おお、すまんの」
関西弁を口走っていた。
・・・なに?
なんや。どないなっとんねや。
「いや、あの、君みたいなきれいな人に会うとどぎまぎし
ちゃって」・・・と言って取り繕おうとしたら
「いや、あんたは別嬪やけど、まあ、前の嫁はんの広子の
ほうが別嬪かな?正味の話」
看護師は、ぎろりとこっちをにらんで出て行った。
どないなっとんねや。
喋ると、思てることが全部口からでてしまう。これは・・・
なんや、打ちどころが悪かったんか?
おれ、嘘がつけんようになったんか?
それは、致命的やないか。いろんな意味で。
こら、しばらくは口がきけんフリをするしかないかーーー
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人は、ピンクの世界に生きている。真っ赤なウソと真っ白
な真実のまざりあう場所だ。イギリスの詩人、スチュワート
の言葉(嘘)
(次週につづく)
古川雅之ふるかわ まさゆき
2009年入会