『TCC広告賞展2017』トークイベント 【TCC TALK LIVE Vol.4】 「佐々木宏 × 福部明浩 広告は、やっぱりもちろん、面白い。 」
TCC広告賞展第4回目のトークイベントはシンガタの佐々木宏さんとCATCHの福部明浩さんによる対談です。司会は博報堂の黒田康嗣さんに担当していただきました。リオ五輪のハンドオーバーの舞台裏やカロリーメイトの制作の話など、ご自身の仕事を中心にさまざまなトークを広げていただきました。
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
『TCC広告賞展2017』トークイベント
【TCC TALK LIVE Vol.4】
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
「佐々木宏 × 福部明浩 広告は、やっぱりもちろん、面白い。 」
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
日時
2017年6月29日(木)18:30~20:00
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
パネラー
佐々木宏氏(TCC賞/佐々木宏ジム所)
福部明浩氏(TCC賞/catch)
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
佐々木
僕はもともと電通の社員だったので、大貫卓也さんを始め、博報堂の人とは仕事がしたくてもできませんでした。その後つくったシンガタという会社も電通系だったんですけど、博報堂を辞めた人たちとは仕事ができたんですね。そこで、谷山雅計さんや照井晶博さんたちと仕事をするようになりました。しかもみんなやめてすぐ、すかさず(笑)。その流れで今は福部君とも仕事をしています。見ての通り福部君はものすごくさわやか端正な容貌ですが、考えることはとても大胆だしユニークです。「まるで若い頃の自分を見ているようだ」と言うと福部君は嫌がると思いますが(笑)。というのは、福部君はコピー一筋というより、コンセプトからビジュアルからCMのアイデアまでいろんなことを考えたいタイプ。企画や仕掛けを考えて、その真ん中にある言葉を探すという人だと思います。そこは僕が理想とするタイプのコピーライターなんですね。昨日も電話で「明日はよろしくね」と伝えるついでに仕事をひとつ頼んでしまいました。というわけで今日はよろしくお願いします。
福部
よろしくお願いします。昔、佐々木さんと面識がない頃、サントリーさんの1階で佐々木さんを見て「うわ、佐々木宏がいる」と思いました。じつは今でも佐々木さんを見ると同じように思います。スマホが鳴って「佐々木宏」と表示されると、ダースベーダーのテーマが聴こえてくるようです(笑)。でも、一緒に仕事をしてみてわかったのですが、佐々木さんはちょっとやそっとのことでは「面白い」と言わない人ではなくて、むしろ「それいいね」「それ最高だね」と言って打ち合わせの場をどんどん前に進ませてくれる。博報堂のときも優秀なCDはみんなそうでしたが、佐々木さんもそういう人です。今日も「うわ、佐々木宏がいる」って思ってますが、みなさんと同じ立場で佐々木さんにいろいろな話を伺っていこうと思います。
佐々木
いきなりですが、ちょっとツッコミを入れていいですか?
福部
え、やばい(笑)。
佐々木
今の話は僕にいろいろ気を遣ってくれたと思いますが、この会場にいる若い人からすると福部君こそが、今をときめく憧れの人になっていると思います。僕はたぶん「横にいるあのおじさんは誰だろう」くらいに思われている(笑)。僕ももう62歳で、いつまで仕事をするんだろうと思われているでしょうし、その上今年は図々しくもTCC賞をいただいたりして、多少はみっともないと思わなくもないのですが、今日は福部君に僕の毒消し役をお願いしたいと思います。
福部
いえいえ。
佐々木
今日は事前にみなさんからの質問もいただいているんですけど、せっかく今をときめく福部君が来ているので、旬な人の話を伺ってみたいと思います。とはいえ福部君が目立ち過ぎていると感じたら、僕もしゃしゃり出ていくと思いますが(笑)。
黒田
ではさっそく、今年の受賞作について佐々木さんから感想を伺いたいと思います。
ハンドオーバーにいたるきっかけ
佐々木
はい。毎年審査をしながら「今年はイマイチだな」とか「広告もいよいよ終わりだな」とか悪態をついているのですが、選ばれたものを見るとやっぱりいいものが残っていると感じます。どっこい広告がんばってるなと。児島令子さんのearth music & ecologyもあれだけの量のコピーをクオリティを落とさずに書いて、いわゆるいい意味でコピーっぽいコピーがズラリ。しかもしっかり賞も取っている。ラジオCMにもいいものがありましたね。こうすればTCC賞を取れるというツボを押さえた企画で、相当な手練の仕事だと思いました。そういう人が賞を取るというのはTCCが健全だということだと思います。国井さんが受賞された伊藤忠商事の広告も好きでした。社員にスポットを当てて、そこに樹木希林さんのナレーションが入る。演出は是枝裕和監督で非常に感じのいいCMに仕上がっています。それまで伊藤忠に興味がなかった人が見ても「伊藤忠に勤めている人って良さそうだな」とか「うちの息子を入れたい」と思うようになるでしょうね。ほんとうにうらやましい仕事です。そんな中、僕が個人的にいちばん好きだったのはTUGBOATの多田君がつくったトヨタ・ヴィッツの長尺CMです。じつは今年、仕事の都合でグランプリの投票に出られませんでした。で、「グランプリはヴィッツ」と言い残して会場を出たんですけど、結果見事に僕の意見は無視され、ヴィッツはふつうのTCC賞になってしまいました(笑)。でも、ヴィッツはほんとうに笑えるし、企画もコピーも演出もビジュアルもすべて完成度が高い。それからリオ五輪のハンドオーバーについても。あまりTCCって感じではないと思うのですが、ありがとうございます。あの映像って8分もあるので審査では不評を買うと思いきや、意外とそうでもなかったので驚いています。この会場の中にも「どうして広告をやっている人間にああいう仕事が回ってきたんだ?」と思う方がいると思います。今日はそれについて福部君と話したいのですが、いいですか?
福部
どうぞ、どうぞ。
佐々木
今から40年くらい前ですけど、新卒で電通に入ったときに、抱負を書けと言われました。で、僕は、「都知事になりたい」って書いたんです。ほんとうに都知事になりたいわけじゃなくて、東京都をもっと良くするとかそういうことがやりたかったんです。でもまあ、そういう仕事はやっぱりなくて、ほとんどの仕事は企業の宣伝活動のお手伝いということになる。それはそれで憧れだったサントリーさんの仕事ができたりして、非常に幸運だったんですけど、歳を取るにつれて、「世の中で必要とされているのに、誰もやってない仕事があるんじゃないか」と思うようになったんです。そんな中、東京にもう一度オリンピックが来ることが決まりました。自分も何か関わることはできないかと思いましたが、そう簡単に声がかかるわけがありません。ところがひょんなことからリオの閉会式のお手伝いをすることになったんですね。
ある日新聞を読んでいたら、渋谷に4棟ぐらい高層ビルができるという記事を見つけました。スクランブル交差点の上にビルが4棟建って、ハチ公も移動するかもしれないと書いてあったんです。渋谷っていい意味で猥雑で、僕は渋谷が大好きという世代じゃないけど、それでもやっぱりあの街は、ポスターとか駅貼りとか、大きなムービングアドとかもできて、僕ら広告業界の人間にとってはすごく魅力的な街なんですね。ところが、広告媒体として必要な場所にビルが建ち並んでしまうと、汐留とか新宿西口の副都心みたいに広告のない街になってしまう。それが嫌だなと思ったんです。それで、僕は一応コピーライターでもあるので、「渋谷をタイムズスクエアに」という言葉がふと浮かびました。別にキャッチフレーズってわけじゃないんですけど。ニューヨークのタイムズスクエアって近くにブロードウェイがあって、ウォールストリートもあって、非常にかっこいい。特に夜は、さまざまな広告、ムービングアドが、夢のように輝き交錯して、渋谷があんな場所になるといいなと思いました。広告映えする街。それで、いても立ってもいられなくなり、いつも一緒にCMをつくっているプロダクションさんにお願いして勝手にビデオをつくったんです。できあがったビデオを最初に電通の澤本君に見せたら、誰それにも見せたほうがいいですよとか、いろいろアドバイスをしてくれました。で、いろんな人に見てもらうことになり、回り回ってついには当時の都知事の猪瀬さんに見ていただくことになった。この渋谷ビデオ、意外に面白がられて、というか、誰からかまわず、自分から見せまくったんですね。さらに調子に乗って自主的勝手につくるビデオ第2弾として、オリンピックは、こうやるべきビデオというのもつくったんですね。偉そうに(汗)。かなりいい加減な独りよがりものですが(笑)。そうですね。友人の結婚式ビデオをつくるノリですね、完全に。今までのセレモニー風開会式なんかやめて、こういうのをやるべきという居酒屋で語る持論のようなね。たとえば、開会式でいきなり男子100メートル決勝をやり、その優勝者ウサイン・ボルトが、そのまま聖火を灯そうとする。そこにゴジラが出てきて、フーッと先に火をつけてしまう、とかなんとか。噴飯物と言って怒られそうですが。入場行進は、一国10人以内で走ってパッとすませるとか(笑)。そういう非現実的なアイディアも含めて、面白がってくれた方がいて、回り回って、いや、ほんとうに不思議なんですが、結果的にはそれがきっかけとなってリオ閉会式のお話になりました。
黒田
それが先ほどの「ひょんなこと」なんですね。
佐々木
そうですね。ひょんというほどでもないですかね(笑)。それから、話は冗談ではなくマジになり、途中割愛しますが、リオの閉会式の、ま、東京のプレゼンテーションですね。これを組織委員会会長の森さんにすることになった。そこで僕はまず、椎名林檎さんとやりたいと提案しました。以前NHKで椎名林檎さんと蜷川実花さんがオリンピック開会式で恥をかきたくないというような対談をしていて、それを見て僕は椎名林檎さんがオリンピックをやればいいと思った。彼女のようなセンス炸裂、才能あふれ出る超一流のアーティストがやるべきだと。僕の提案はいつも「人」任せなんです。最初にソフトバンクの孫正義さんに会ったときもアイデアとかコピーではなく「大貫卓也さんとやりたい」と提案しました。もちろん、自分が何者かの話をしたあとですが。初めてのクライアントには企画なんかじゃなくて、「この人と仕事をするべきだ」というのを提案したほうがいいんじゃないでしょうか。そういうことってクライアントの方はわからないケースが多いので。オリンピックの話に戻りますけど、そういうわけで、椎名林檎さんというアーティストを巻き込むのが僕の最初の仕事だと思っていました。そのあとにMIKIKOさんとか菅野薫君とか、太田恵美さんとか浜辺明弘さんとか、児玉裕一さん、真鍋大斗さんと、いろんな人をどんどん巻き込んでいくことになるわけですが。先ほども言ったように、僕もいい歳になって、企業の広告だけでは満足できなくなってきたんですね。「日本」の広告がしてみたかったんです。羽田空港とかによく”Welcome to Japan”っていう看板があるけど、あれを見るといつも残念な気持ちになります。ほんとうはあの看板がいちばん大事なんですよ。あれこそいちばん優秀な人たちが、若くて次世代を担う人たちがやるべきです。
黒田
あらためて伺いますが、渋谷ビデオを最初につくられた時点では、誰に見せるかという、先のことは考えてなかったんですよね。
佐々木
そうです。そもそも僕はプレゼンビデオが好きなんですね。競合プレゼンでもビデオコンテをつくるとそれで満足しちゃって、これで負けるなら別にいいかと思っちゃうぐらい(笑)。渋谷ビデオも誰に見せるわけでもなく衝動的につくりました。プロダクションのギークさんにはいつも迷惑をかけています。
黒田
コピーライターって、受注産業だと思い込みがちなんですけど、自分にスキルがあるんだったら、つくりたいものをつくれるということですよね。
福部
ほんとうにそうですね。「佐々木さんだから、オリンピックの仕事が来たんでしょ」って、みんな思ってたはず。でも、そうじゃないんですね。今日会場に来られたみなさんがいちばん知りたいのは、「どうやったらヒットが飛ばせるのか」ということだと思いますが、重要なことがふたつあると思います。まず、打席に立つこと。もうひとつが、打席に立ったときにヒットを打てるように常に素振りをしておくこと。で、難しいのは素振りより打席に立つことなんです。バットを振るのはどこででもできるけど、そこがバッターボックスじゃなかったら打っても誰もヒットと認めてくれない。佐々木さんは誰に見せるわけでもないビデオを、打席に立つためにつくっていたわけですよね。佐々木さんの話を聴きながら会場のみなさんは「そんなスケールの大きな話をされても困る」と思ったかもしれません。でも、打席に立つための努力と思えば、参考になるんじゃないでしょうか。学生だったら、広告会社に入るのも打席に立つということだし、転職のための活動もそうですよね。自分の明日のためにやることはどんなことでも打席に立つための努力だと思います。
黒田
まったくそう思います。佐々木さんがそういうことをやられていると知ってちょっと感動します。
福部
オリンピックのハンドオーバーには佐々木さんが今まで培ってきた技術が全て詰め込まれてると思います。海外の人に見せるときには、小さなギャグみたいな引き芸は通用しないから、とにかくデカいことをやらなきゃいけない。それっていろんなことをくぐり抜けてきたからこそわかることですよね。それまでは「東京でやらなくてもいいんじゃないの」という雰囲気が世の中にあったと思うんですけど、ハンドオーバーを境に空気が変わった気がします。広告で培われるいちばんの能力は、いろいろな人たちの全然違う意見をまとめてひとつにすること。オリンピックもめちゃくちゃいろんな人がめちゃくちゃいろんなことを言っていたと思うんですよ。そんな事情の中、東京都知事や、組織委員会に真剣にプレゼンした佐々木さんの心の強さ。広告の仕事をやっているとタフになりますけど、広告業界でいちばんタフなのは間違いなく佐々木さんだと思います。歳を重ねても「日本の広告をやる」と思い続けられるピュアさは、すごいなと思います。
佐々木
いいや、心も体も弱ってきています(笑)。
大塚製薬のDNA
黒田
渋谷の街に対する思いもすごいですけど、「いても立ってもいられない」と思えるところがもっとすごい。大変勉強になりました。ここで話題をちょっと変えて福部さんに今回の審査や受賞作についての印象を伺っていいですか。
福部
僕はグランプリに関しては圧倒的に赤城乳業の「値上げ」が素晴らしいと思って入れました。他に好きだったのは虫コナーズ。「会社にぶら下がっていたい」というラジオCMです。でも、オリンピックのハンドオーバーと虫コナーズが並列しているのがTCCの面白いところですよね。
黒田
ギャップがすごい。
佐々木
僕は若い頃、いつかはサントリーの仕事がしたいと思っていました。名だたる有名人がサントリーの仕事をやっていて、誰もがやりたいと思うクライアントでした。そのサントリーさんの強力なライバルである大塚製薬さんが今年はTCC賞をふたつも取っています。去年も福部君はカロリーメイトでTCC賞を取っているし、電通賞も2年連続で大塚製薬がグランプリです。スタークリエイターたちが大塚製薬さんをやり始めているという感じがする。カロリーメイトとポカリスウェットを中心に、かつてのサントリーさんのように、みんなが憧れるクライアントになっているようにも見えます。その理由が何なのか、福部君に聞いていいですか。僕もいつかやりたいと思っているので。
福部
佐々木さんが大塚製薬をやったら事件ですよね(笑)。
佐々木
もちろん冗談ですけど(笑)。
福部
最初にライトパブリシティの秋山晶さんと細谷巌さんがパッケージから広告まで全部つくられたんですけど、その遺伝子が脈々と受け継がれているのかなと思ったりします。大塚明彦さんという、もう亡くなられた2代目のオーナーとライトパブリシティが二人三脚でやってこられたことが色濃く残っているというか。僕らがCMを考えるときも最後にあのロゴがビシっと収まるものにしなきゃといつも思っています。それと、大塚製薬さんってオーナーカンパニーで、大塚家の遺伝子なのかもしれないけど、好きなものがはっきりしているんです。大塚明彦さんの面白い逸話があって、これからの経営をどうしていくか、コンサルティング会社を3社くらい呼んだそうです。すると、全社意見が一致していた。そこで大塚明彦さんが「じゃあ、そのセオリーの逆をやろう」って言ったと伝え聞いています(笑)。多少都市伝説な尾ひれがついてるかもしれませんが、これこそがオーナー企業の魅力です。マーケティングとかあまり関係ないんですね。むしろマーケティングの逆を行こうという発想。マーケティングはテレビの衛星中継みたいに、調査の時点と世の中に出る時点でタイムラグがあると思います。でも、好き嫌いはライブ。そのときの「好きだ」っていう感情がずっと続いているから時代遅れにならない。ソフトバンクも孫さんのオーナーカンパニーだし、日清食品もサントリーもそうですよね。オーナーが強いリーダーシップを取っているとき、企業は好調なのかもしれませんね。
佐々木
大塚さんはポカリとカロリーメイトが真ん中にあって、今、お話にあったようにライトパブリシティのふたりのレジェンドの影響がいまだにあるように見えるのがうらやましい。もちろんサントリーさんもすごくいい会社です。昔からいろんな商品をやらせていただきましたが、嫌な思いをしたことは一度もない。すごくクリエイティブを大事にしてくれます。
福部
カロリーメイトのパッケージって、商品名と英文しか書いてないんです。ふつうだったら「◯◯配合」とかいろいろ書きたくなりますよね。でも何も書いてない。大塚さんの社員が面白いのは、「あれは表じゃなくて裏なんです」って言うんです。大塚製薬にとっては裏面の成分表示こそが表なんですね。人と違うことを本気で信じている人たちってやっぱり面白い。
佐々木
風邪をひくとお医者さんで「ポカリスウェット飲みなさい」って言われますよね。あれ、不思議ですよね。「アクエリアス飲みなさい」とは言われない。不思議ではあるんだけど、そこが商品の信頼感なんでしょうね。
福部
大塚さんでポカリスウェットのことを「スポーツ飲料」って言うと、めっちゃ怒られます。ポカリスウェットって「飲む点滴」って言われるんですけど、スポーツ飲料と違ってすべての人に必要な飲み物なんですね。そういう企業文化があって、最初はそれを理解するのに結構時間がかかりました。
佐々木
今、ポカリスウェットは、ダンスのCMをやっています。これまでの中でも、かなり若い人にシフトしているように見える。若い人たちは今、大塚さんがいちばん身近なブランドに感じているのかもしれませんね。
福部
僕はMATCHも担当しているのですが、今は炭酸飲料がトクホになる時代です。それこそコーラやサイダーだってトクホになっちゃう。で、炭酸飲料ってトクホになった瞬間にキラキラした青春のイメージが消えて、途端に健康を気にする50代、60代がターゲットになるんですよ。そうなるとやっぱりブランドの軸がぼやけてきちゃう。余談ですが、最近コンビニの仕事をするようになって、すごく面白いと思ったのが、昔は若者用のヘアカラーが売れていたのに、今は白髪染めのほうが売れるそうです。コンビニの客層の中心が50代、60代になっているんですね。そんなわけでサイダーもスカっと爽やかな感じでいいのに、福士蒼汰君と芳根京子ちゃんに加えて高田純次さんまで出ていたりする。ターゲットがブレると表現もブレていくと思います。その点カロリーメイトはパッケージもターゲットもブレずに変わらないので、そこが表現をつくりやすい要因かもしれませんね。
今空いている場所
福部
ここからは僕が最近気になっているCMをいくつかご紹介していこうと思います。最初は、武田鉄矢さんと芦川よしみさんが出演する「タケダ胃腸薬21」のCMです。
このCMもド直球ですよね。曲もコピーも。このキャンペーンは電通の藤岡和賀夫さんという方が手がけられたと聞いています。今や日本の名曲のベストスリーに入るような曲を広告界が生み出したというのが誇らしくて、すごくよくできたCMソングは時間が経つと普遍的な名曲になるんですね。
次は「I feel Coke」というコカ・コーラのCMです。
今、当時のコカ・コーラのCMをネットで調べると「爽やかすぎて死にたくなる」というコメントが出てきます。ストレートなものって恥ずかしくてなかなかつくりづらいのですが、見るとやっぱりスカっと爽やかな気持ちになるし、完全にコカ・コーラのブランディングに寄与していますよね。「ALWAYS~三丁目の夕日」で、コーラを飲んでるタバコ屋のおばあさんに堤真一が「何だ、そのしょうゆみたいなものは」って言うシーンがあるんですけど、確かにあんな黒い飲み物を爽やかにするってすごいですよね。これはまさに広告の力だと思います。「飲みすぎたのはあなたのせいよ」とか「I feel coke」とか「いい日旅立ち」とか、こういう広告が今いちばん「空いている」と思っていて、最近その場所に降り立ったのが「GINZA SIX」のCMです。
先ほども話に出た椎名林檎さんがつくられた曲が素晴らしいし、映像としてもすごくよくできてる。これ、YouTubeで250万回くらい再生されているんですけど、もう一桁多く観られてもいいのになと思って、どこかチューニングできるところがあるんじゃないかと勝手に考えてみたんです。で、気づいたのは映像の最後に「世界が次に望むものを。」というコピーが入っているんですね。最後に違うメッセージが突然出てくる感じで、もしこれが「いい日旅立ち」みたいに歌詞と同じコピーだったら、1000万回くらいは再生されたんじゃないでしょうか。もし関係者の方がいたらすいません。僕の勝手な妄想です。
佐々木
ちょっと口を挟んでいいですか。この映像はほぼオリンピックのハンドオーバーのメンバーでつくられていて、僕だけはじき出されているんです。それが1000万回に届かない理由、ってことはぜんぜんないですね、失礼しました。
福部
(笑)
佐々木
いや、でも、このGINZA SIXの映像はすごくいいですよね。椎名林檎さんワールド全開で。あと、児玉さんの演出もね。関わった人が、羨ましい。妬ましい(笑)。
黒田
そうですね。
福部
コピーが仕事をしたかどうかのひとつの目安として、そのCMがなんて呼ばれるかというのがありますよね。もしGINZA SIXが「椎名林檎さんのCM」と呼ばれていたら、やっぱりちょっと残念かなぁ。
佐々木
椎名さん的には「目抜き通り」が、裏コンセプトというかキーなんでしょうね。
福部
先ほど佐々木さんが「渋谷をタイムズスクエアに」とおっしゃっていましたけど、「目抜き通りをもう一度華やかにする」というそのコンセプトがいいですよね。あの曲に「目抜き通り」というタイトルをつけた椎名さんのセンスはさすが。
佐々木
でも、先ほどの福部君の分析だけど、みんな意外とその場所を狙っているよね。
福部
ほんとうですか。
佐々木
auのようにタレントがいっぱい出て来て、話題満載、隙がないフルコースみたいなCMに対して、15秒だけで伝わるシンプルなものがいいという、お茶漬け食べたい症候群ってのもある。来年あたりはそこを狙ったものが増えてくるんじゃないでしょうか。
福部
なるほど。そうかもしれませんね。昔のCMを見て思うのは、「景気良さそうだな」ということです。別にゴージャスな映像ってわけじゃないのに景気が良さそうに感じる。今のCMっていろんなところに気を遣っているのがCMから透けて見えるんですね。そんな中でも最近すごく素敵だと思うCMがあって、それがゼクシィのCMです。
「結婚しなくても幸せになれる時代に私は、あなたと結婚したいのです」というコピーは今の時代にゼクシィが言える最高のメッセージだと思います。というのは、ゼクシィって「結婚しない人間は終わってる」っていう凶器にもなりかねない雑誌ですよね。でもこのコピーは結婚しなくても幸せになれるとも言っていて、結婚しない側にも立っている。そこがいいですよね。ゼクシィの演出もGINZA SIXと同じ児玉裕一さんです。
佐々木
I feel cokeは懐かしく見ましたけど、この頃のコカ・コーラはものすごくセンスのいい人たちが「コーラなんてかっこよければいいじゃん」って思いながら、ひねりを入れずにつくっていたと思います。制作は当時マッキャンエリクソンにいた坂田耕さんですね。顔もカッコイイですが、根がオシャレで粋な人です。じつは僕も「そうだ 京都、行こう。」を最初の競合プレゼンから10年ほどやっていたんですけど、競合プレゼンに勝ったときはけっこうひねった企画でした。京都ニュースという企画。勝った後にクライアントから「ひねりはいらない。きれいな絵はがき的な絵とあと新幹線出してくれればいいから」と言われました。そんなの表現じゃないじゃんとムカッときたんですけど、今思えば、ひねりがなかったからこそ、四半世紀続く長いキャンペーンになったんだと思います。太田さんはじめスタッフの粘り勝ちでもありますが。「表現しなきゃ」とか「ひねらなきゃTCC賞が取れない」とか、僕らはつい考えてしまいますけど、世の中的にはそんなことはあまり望まれてないのかもしれないなと福部君の話を聞いて思いました。とはいえ、クライアントから「コカ・コーラみたいなのをつくってください」と言われてもどうやってつくればいいのかわかりませんが。
福部
そうなんですよね、コカ・コーラみたいな表現は勉強のしようがないですよね。普段からセンスが良くないとつくれないと思います。でも僕はハンドオーバーを観たときにI feel Coke的なてらいのなさを感じましたよ。今年のTCC賞は「私たちはオリンピックを発明した。」も受賞してますけど、あれはアイデアが人に説明しやすいと思います。それに比べてハンドオーバーはアイデアが大きすぎて、どこがポイントなのか説明が難しいところがある。同じオリンピックものでも対照的ですよね。
流行語大賞に負けないコピー
佐々木
ハンドオーバーのコピーについてもちょっと話しておきたいんですけど、僕はコピーライターでもあるので参加する以上はコピーらしいものを残したいという欲はなくもなかったんです。TCC賞的には「LOVE SPORT」が受賞コピーになっているんですけど、アレは、ADの浜辺君が、ラフにチョロッと書いていたコピーで、それが、キーワードになった感じですが、最初は「ケンカをやめて、ケンカはスポーツで。」というコピーを書いていました。コピーというか、テーマですね。オリンピックってもともと、古代の男たちが争いばっかりしてるから戦争をスポーツに変えて、戦っても死なないようにしようという知恵から生まれたと言われている。そこで、今こそオリンピックの意味が問われてるという意味で、ケンカをスポーツで発散というテーマがいいなと思ったんです。表現も黒澤明さんの『乱』をフィールドに映して、武士たちがわーっと戦ってるみたいなイメージで。じつは、福部君がやった武士がサッカーをやる日清のCMも一部プレゼンで使わせてもらってます。
福部
そうなんですか。光栄です。
佐々木
長年、戦争に関わり、被爆国でもある日本だからこそ、そして、今は、世界のどの国より平和が続いている。だからこそ、それを言うべきだと思ったんです。ところがオリンピック的にIOC的に「けんか」という言葉が使えなくて、最終的にそのコピーはなくなりました。でもその後、日本のアニメやゲームのキャラクターを平和の象徴にすることで、言葉じゃなくても全体的なメッセージとして「PEACE」が伝えられることを優秀なスタッフたちが教えてくれました。菅野君の「マリオを使おう」が大きかったです。もしコピーライターに、何でもいいから一行のコピーを残したいという欲があったら、メッセージが歪んでしまったと思います。
福部
そうですね。最近よく思うのは、コピーライターってCDになるとコピーを書かなくなりますよね。でもじつは逆で、CDになったほうがいいコピーが書けるんじゃないかと思うんです。CDとして全部を決められる立場でコピーを見ると、「このコピー外そう」という判断もできる。逆にコピーライターがCDに選ばれるためだけにコピーを書くと、蛇足みたいなコピーになったりすることもある。あと、最初に言葉ありきと言いますけど、意外と最後に言葉がついてくることもありますね。今年僕が受賞したカロリーメイトのCMは「Mate篇」というんですけど、このCMはカロリーメイトの「メイト」から発想したんでしょと、よく言われるんですが、実際は逆で、最後の最後に「これ、『Mate篇』ってタイトルがよくない?」って決まったんです。商品名がカロリーメイトだから「Mate」というテーマがぴったりだったんだなということに後から気づいたわけです。大枠さえ決まっていれば最後に言葉が追いつくことがある。ハンドオーバーで言えば、「東京を愛してもらおう」とか「ポジティブな高揚感をつくろう」という大枠さえあれば、コピーはなくなっても別の何かが残ると思います。
佐々木
すごく同感です。正直言って今はTCCのグランプリを取ったコピーが世の中的に話題になるってことはないですね。それよりも「このハゲー!」のほうが話題になる(笑)。
福部
あとは「忖度」とか(笑)。
佐々木
昔は広告のコピーが世の中で話題になることもあったんです。今はそういう時代じゃないこともわかりますが、コピーライターは「流行語大賞に負けるな」という意識を持つべきだと思います。句会みたいな内輪の世界に閉じこもっていたらダメだと僕は昔から言っているんですけど、そういう意見はどうも少数派みたいで。
福部
僕はTCC年鑑でどの審査員が何に投票したかを見るのがすごく好きなんです。審査員自身のつくっているものと投票しているもののイメージがずいぶん違うことが多いんですよ。CMをたくさんつくっている人がグラフィックにばかり投票していたり、その逆のパターンがあったり。人は自分につくれないものに惹かれるのかなと思います。
黒田
知らない方のために補足すると、TCC年鑑には「投票行動表」というのがあって、審査員の皆さんが最終的にどれに入れたかが公開されて載っているんです。
ツイートされるコピーとは
福部
僕、今、ファミリーマートの仕事をしてるんですけど、ファミリーマートって「ファミチキ」が看板商品なんですね。それなら、「ファミチキ」をタレントにしようと思って「ファミチキ先輩」というキャラクターをつくりました。それから日清の「どん兵衛」もやっていて、キャッチコピーは「ふっくら」なんですけど、いちばんツイートされるのは、吉岡里帆さんが演じるきつねの名前だと思って、「どんぎつね」って名前をつけたんです。そしたら案の定、「ふっくら」よりも1,000倍ぐらい「どんぎつね」のほうがつぶやかれてました。やっぱり名前はみんな覚えるし、古くならないと思います。「宇宙人ジョーンズ」もそうですよね。「このろくでもない、すばらしき世界。」という素晴らしいコピーがあるんだけど、やっぱり「ジョーンズ」とか「宇宙人ジョーンズ」が、いちばんツイートされる。というわけで「名前」がいちばん流通しやすいコピーなんじゃないかと最近思っているんです。ちなみに、どん兵衛の今までのコピーの中で最高峰はたった4文字でどん兵衛を表現している「どんばれ。」だと思っていて、それじゃない方向でやるしかないと思って「どんぎつね」にしました。
佐々木
「どんばれ。」をついでみたいに言われたのが気になります。照井に忖度。
福部
いやいや、違います。ついでみたいには言ってないです(笑)。
佐々木
僕と福部君の間にはじつはこういう溝があるんです(笑)。僕はちょっと前まで「どん兵衛」を澤本君と照井君たちと一緒にやっていて、10年ぐらい続けようとはりきっていたら、突然お役御免になりました(笑)。で、気づくと福部君がやっている(笑)。吉岡里帆と星野源ですよ、ずるい。でも、「どんぎつね」はやられたと思いましたよ。今日の質問の中に「最近、やられたと思った広告は?」っていうのがあったんですけど、まさに「どんぎつね」がそれですね。
福部
佐々木さんと「どん兵衛」の話をするのはじつは初めてです。みんながいるところじゃなきゃできないと思って(笑)。
佐々木
僕は割と根に持つタイプです(笑)。でも、日清さんは一度でいいから、担当してみたいと思っていたクライアントでした。
福部
そうですよね。
佐々木
一度できたので満足してますけど、いつか「どんぎつね」が飽きられたら、すかさず提案してやろうと思っています。お呼びじゃないでしょうが(笑)。
ハイブリッドという働き方
佐々木
僕も今年で63歳で、こういう場で話すことが遺言と言うか、最後の言葉になるかもしれないと思わなくもない。というのは先輩の眞木準さんが亡くなられたのが60歳だったので、その歳も超えてしまったんですね。そういうわけで眞木さんのコピーを借りてお話をさせていただくと、「四十才は二度目のハタチ。」という有名なコピーがあります。25年くらい前の伊勢丹のコピーですね。ショルダーコピーにも「何人まで愛せるか」というコピーが入っていて、いかにも眞木さんらしい素敵な広告です。中年男性に向けて「もう一度おしゃれをしよう」というメッセージですが、最近僕はこの言葉をアレンジして使っているんです。桑田佳祐さんが61才になって「六十才は三度目のハタチ。」(桑田佳祐さんの写真にコピーが添えられているスライドを出しながら)。加山雄三さんが80才になって、「八十才は四度目のハタチ。」(加山雄三さんの写真にコピーが添えられているスライドを出しながら)。このふたりはともに茅ヶ崎出身で、生まれたばかりの桑田佳祐さんを加山雄三さんが抱っこしている写真も残っているんです。
福部
へえー、そうなんですか。
佐々木
茅ヶ崎には「雄三通り」と「サザン通り」があるし、縁が深いおふたりなんですけど、そのふたりがたまたま60才と80才。話が急にマーケティングみたいになってしまいますけど、日本が抱えているいちばんの問題って少子高齢化なんですね。今はまだイケてる国みたいになってますけど、少子高齢化によって日本は相当ダメな国になっちゃうらしい。とはいえ、高齢化といっても昔に比べてみんな若いですよね。僕はだから「年寄り」という言葉を「年より若い人」と言い換えたらいいんじゃないかと思っています。で、「世界一長寿の国」なんて言い方もやめちゃって、「年より若い人が世界一多い国」というブランドイメージをつくったらどうかと思ったんです。まさに眞木さんの「四十才は二度目のハタチ。」という発想です。あと、もうひとつ眞木さんにちなんでダジャレなんですけど、「60歳低燃費ワーク」という言葉も考えてみました。「60歳定年」を「60歳低燃費ワーク」と言い換えるんですね。で、定年を迎えて無駄のない効率のいい働き方をする人たちを「スマートワーク世代」と呼ぶ。「あの人60過ぎてまだ働いてるよ」「スマートワーク世代だからね」みたいに使われる感じ。それで、ドラマの「相棒」みたいに、スマートワーク世代とぐいぐい働く若者をコンビにしたらいいと思うんです。まさに、TBSの「情報7days ニュースキャスター」のビートたけしさんと安住アナみたいなコンビですね。年配者と若者がコンビを組んで仕事をする。それこそ、日本の得意とするハイブリッドエンジンです。手前味噌になりますが、ハンドオーバーのメンバーは椎名林檎さん、MIKIKOさん、菅野薫君、演出の児玉裕一さん、ADの浜辺明弘さんが30代から40代、僕とコピーライターの太田恵美さんが60代だから「若い人」と「年より若い人」の組み合わせです。それで、あれだけのことができたんだから、これからの日本はそういうハイブリッドがいいと思います。福部君はいくつだっけ?
福部
41歳です。
佐々木
まさに「二度目のハタチ」ですね。僕が「三度目のハタチ」を超えたところだから、福部君と僕が一緒に仕事をしている状態も「相棒」のようなコンビと考えたらわかりやすいですよね。クリエイティブ・ディレクターとコピーライターという関係じゃなくて。そういうコンビで来るとクライアントもうれしいんじゃないかな。若い人だけだとちょっと不安だし、ほんとうの老人が来ると老害が心配になるけど、「年より若い人がひとりいると安心だな」みたいに。まあ、自分に都合のいい理論武装なんですけど、僕はそんなふうにして生き延びていこうと思っています(笑)。
福部
若い頃に自分に合うベテランのCDと出会えると、仕事をうまく回していけるって誰かに熱弁された覚えがあります。広告って大金を投下するから、クライアントとしても若い人に任せるのは不安だし、確かにたけしさんと安住アナみたいなコンビで仕事をしてくれると安心ですよね。ブレーキとアクセルがちゃんとある感じで。
佐々木
じつはこういう考え方をするきっかけがあって、それが「CRAFT BOSS」という新製品のCM。堺雅人さんが若者に理解のある上司という役で、「今度の仕事はふたりで競い合ってみるか?」と部下に提案すると、「競い合うのとか好きじゃないんで」と跳ね返される。「新しい風が、吹いた。」というのがメインコピーなんですけど、最初は「若いもんにまかせろ」というコピーを提案していたんです。クライアントからも好評でほぼ決まりかけたんですけど、商品開発をした若い方の意見も聞いてみようと思って、「どうですか?」って尋ねたら、そのコピーが好きじゃないと言う。「上の人から丸投げされるのがいちばん嫌です」って言うんですね。なるほどなと思って、それ以来、「若い人」と「年より若い人」のコンビがいいんじゃないかと思うようになったという次第です。
黒田
残念ながら、そろそろ終了のお時間が来てしまいました。最後におふたりからひと言ずついただけたらと思います。では、福部さん、よろしくお願いします。
福部
この仕事のいいところは、いい広告さえつくれば、それが自分の広告として独り歩きしてくれるところ。特に今の時代はバイラルすることがあるので、とてもいいなと思っています。昔だったら自分のつくった新聞広告を会社の壁に貼っても、見てくれるのはせいぜい100人くらい。でも今はSNSもあるので、その1万倍の人が見てくれる可能性がある。難しいことを考えずにいいものをまずひとつつくる。そうすれば打席は回ってくると思います。とにかく打席に立つ。そのために素振りをする。そのふたつですね。
黒田
福部さん、ありがとうございます。では、佐々木さんからもお願いします。
佐々木
今の福部君の言葉に尽きると思いますが、「どうしたら打席に立てるんだ」と思う方がいると思います。こればっかりはひとりじゃ無理なんですね。電通や博報堂みたいな会社に入るという方法もあるだろうし、プロダクションに入って現場から働き始めるのもいい。有名なコピーライターのところへいきなり押しかけて「弟子にしてください」と言っても難しいけど、こういう講演会で会った人を頼るというのもひとつの手です。いずれにしても自分ひとりで打席に立つというのは無理ですね。僕は電通で28歳のときにコピーライターになったのですが、最初は全然仕事がありませんでした。そこでボツになったコピーをデスクのまわりの壁に貼ってみたりして、ま、今考えれば、それなりにアピールをしました。そんなある日、大先輩で当時すでに電通の大スターだった大島征夫さんがボツコピーを見て、「これ、面白いじゃん」と引っ張り上げてくれた。そのときに運命が変わったんです。そういう図々しさはある程度必要だと思います。僕は父親を早くに亡くしたり、幼少期も全国転々だし、こう見えてわりと苦労をしている。そこで「逆境に強い」というキャッチフレーズを自分につけていました。そして最近は「かえってよかった」という言葉を自分の中のキャッチフレーズにしています。広告の仕事ってしょっちゅう逆風が吹く。クライアントに跳ね返されることは年中行事だし。広告が炎上することもあるし、広告が話題になっても商品が売れないこともある。そのときにいちいち悩んでたらやってられない。それを当たり前のように受け入れて、バネにする。何が起こっても「かえってよかった」と思えるようになると、広告の仕事はうまくいきます。というか、逆に言うと、すんなり通った企画って、意外に、世の中的にダメな場合が多い。これはもう身をもって経験していることですね。今日も先ほどまで福里君と打ち合わせをしていたんですけど、企画が全否定されてゼロから考えなきゃいけない辛い状況だったんです。でも、福里君と話をしているうちに「いっそのこと、こうしちゃおうか」ということになって、そのほうがむしろ面白くなった。企画をクライアントに否定されたり、人生的に、壁にぶちあたったり,思わぬ試練に見舞われたりした時にこそ、とりあえず、「かえってよかった。」と思えるようなしたたかさを持ってもいいんじゃないかと思います。これ乗り越えると、逆に面白いことになるかもしれないと想像力を広げたり・・・・・ま、ぜひ、お試しください(笑)。
黒田
佐々木さん、ありがとうございます。おふたりに盛大な拍手をお送りください。本日はありがとうございました。