TCC会報出張所

『TCC広告賞展2017』トークイベント 【TCC TALK LIVE Vol.1】 「神林一馬 × 藤本宗将 × 福里真一 × 権八成裕 新人賞ってどうやったらとれるんですか。」

「TCC広告賞展2017」第1回目のトークイベントは今年の最高新人賞を受賞した博報堂の神林一馬さんを福里真一さん、藤本宗将さん、権八成裕さんが囲む、全員最高新人賞受賞者によるトークライブとなりました。「新人賞ってどうやったらとれるんですか。」とテーマを新人賞に絞ったこともあり、新人賞を取る秘訣や出品の秘訣なども話題に出て、今後新人賞に応募される方には大変参考になる内容となりました。
 
 
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『TCC広告賞展2017』トークイベント 
【TCC TALK LIVE Vol.1】
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「神林一馬 × 藤本宗将 × 福里真一 × 権八成裕
新人賞ってどうやったらとれるんですか。」
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日時
2017年6月23日(金)18:30~20:00 
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パネラー
神林一馬氏(TCC最高新人賞/博報堂)
藤本宗将氏(副審査委員長/電通)  
福里真一氏(TCC賞受賞/ワンスカイ)
権八成裕氏(最終審査委員/シンガタ)
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藤田
本日の司会を務めさせていただく、電通の藤田卓也です。よろしくお願いします。TCCトークライブの第1回目は「新人賞って、どうやったらとれるんですか。」と題して、本年度の最高新人賞を受賞した博報堂の神林一馬さんと、歴代の最高新人賞受賞者3名にお集まりいただきました。まずはパネラーのみなさんの紹介から始めたいと思います。最初はワンスカイの福里真一さんです。福里さんは1997年にカタログハウス「通販生活」のCMで最高新人賞を受賞されました。また、サントリーボスのCMで本年度のTCC賞を受賞されています。先ほど会場でカタログハウスのCMを流して、みなさんに観ていただきました。
 
福里
「通販生活」のCMを観た会場の若い方たちがキョトンとしているのを見て、ちょっと傷つきましたけど・・・(笑)。私も最高新人賞を受賞した頃は電通の若手社員だったんです。ちょうど5年目ですね。いろんなところでこの話をしていますが、当時はものすごく暗い若者でした。電通って何百人もクリエイティブの人間がいるので、その中であえて暗くて感じの悪い若者に仕事を頼もうという先輩もいなくて、毎日仕事もなく、透明人間のように暮らしていました。そんな暗い若者にどうして「通販生活」の仕事が来たかというと、カタログハウスは当時かなり独特な方が社長をやられていて、先輩たちが何案もプレゼンするんですけどなかなか案を決めてくれない。それで、ひとりで何もせずにいる、あの暗い奴にも考えてさせてみようということになり、他の人も含めた大量の案の中からたまたま選ばれたのが私の案だったわけです。そのあとに社長が「あの案を考えた奴に会いたい」とおっしゃられて、会いに行きました。そしたら「あの案は『通販生活』のことを心底バカにしている。そこが気に入った!」というようなことを言われて。それがのちに最高新人賞をいただくCMになったわけですね。
 

 
藤田
福里さん、ありがとうございます。続いて藤本さんのご紹介をさせていただきます。藤本宗将さんは2011年にベルリッツ・ジャパンの仕事でTCC最高新人賞を受賞されました。そして、2012年にはホンダの「負けるもんか。」でTCC賞を受賞されています。また、本年度はTCC賞の副審査委員長も務められました。
 
藤本
電通の藤本と申します。よろしくお願いします。僕は福里さんが最高新人賞を受賞された1997年に電通に入社しました。新人賞をいただいたのはそれから15年後で、ベルリッツの仕事でした。「お客さまをお送りするので、私をタクシーと呼んでください」みたいに、実際に自分がまちがってしゃべっていそうな英語をそのまま日本語に直訳するというコピーです。
 
福里
その時、僕は審査員をしていましたが、やっぱり圧倒的に目立っていましたね。原稿のたたずまいは超まじめで、一見するとつまらなそうな空気を発している。でもコピーを見ると、英語の間違い方がおもしろくてつい笑ってしまう。まじめそうなたたずまいとコピーのギャップがおもしろくて、審査員のみなさんも次々と票を入れていました。わりと文句なしの最高新人賞でしたね。
 
藤田
続きまして権八さんのご紹介です。権八成裕さんは現在シンガタに所属し、CMプランナー、クリエイティブディレクターをされています。最高新人賞は2002年にSEGAの「バーチャファイター4」とKDDI「マイライン市外電話」のCMで受賞されています。
 
権八
シンガタの権八と申します。初めまして、よろしくお願いします。最高新人賞を受賞したKDDIのCMを今見ると「温泉で浮気した話」とか出てきて、もう今のテレビじゃ流せないですね(笑)。
 
福里
この時も私は審査員をやっていました。審査って朝から夕方までものすごい数の広告を見るんですけど、わいわいうるさいCMがすごく多い。その中で権八さんのSEGAは音の構成が独特で、音だけで人を惹きつけていた。あきらかに他と違うCMで、やっぱり最高新人賞の空気をまとっていました。これも文句なしの受賞でしたね。
 
藤田
それでは最後は有楽製菓の「ブラックサンダー」で今年の最高新人賞を受賞された博報堂のCMプランナー、コピーライターの神林さんです。神林一馬さんは2013年に博報堂に入社され、現在26歳と若いのですが、ポーカー日本代表という変わった経歴もお持ちです。ではここで、最高新人賞を受賞された有楽製菓の「ブラックサンダー」といなばペットフードの「CIAOちゅ〜る」の動画をご覧いただきたいと思います。
 
ブラックサンダー 非リアVSリア充ラップバトル
episode1.「黒いイナズマ登場篇」
 
ブラックサンダー 非リアVSリア充ラップバトル
episode3.「会いたくて会えなくて会いたい篇」
 
CIAOちゅ〜る「ちゅ〜るしよ!」篇
 
福里
あらためて受賞おめでとうございます。
 
神林
ありがとうございます。
 
福里
このCMはどうやってつくられたんですか。
 
神林
ブラックサンダーは営業の飛び込みから始まった仕事なんです。2つ上の営業の先輩が有楽製菓さんにいきなり飛び込み営業をしたら、じゃあ何か企画提案してくださいということになって。
 
福里
ブラックサンダーを「非リアの味方」と規定していますけど、そこはクライアントと相談して決めたんですか。
 
神林
僕が大学の時に「一目で義理とわかるチョコ」というブラックサンダーの広告が話題になりました。僕はそれがすごく好きで、その時からブラックサンダー=義理チョコというイメージが頭の中にあったので、そのイメージを強く出していきたいと思ったんです。それと、競合商品のポッキーが「シェアハピ」というキャンペーンを展開していて、それがちょっとウザいなと(笑)。
 
福里
イラッとしたんですね(笑)。
 
神林
世の中にはそう感じている人も多いと思ったんです。それでシェアハピのダンスを踊っている人たちを鬱陶しく思っている、正反対にいる側の人たちの味方になろうと。
 
福里
この企画はストーリーを考えるのと同時にラップの歌詞も書かなきゃいけないですよね。それってスイスイ書けるものなんですか。
 
神林
僕はラップの経験はまったくないんですけど、ラップバトルの番組は興味を持って観ていました。ブラックサンダーでは最初に文字で非リア対リア充の戦いのプロットを書いて、次にそれを全部韻を踏んだ歌詞にしていった感じですね。
 

 
福里
何かを言いたそうにしている権八さん、解説をお願いします(笑)。
 
権八
いやいやいやいや、でも、ブラックサンダーはほんとにびっくりしました。ここ何年か審査員をやらせてもらってますけど、今年は新人賞の審査のほうがずっと楽しかった。そんなことは正直初めて。ブラックサンダーはひとつの事件だったと思います。充実した生き方とは何か、真の創造性とは何かとか、世の中に対してここまで大きなメッセージを投げかけた新人の仕事はちょっとないというか。公然と西野カナちゃんをディスっているのも驚きました。こんなことやっていいのかって。今日ぜひ聞きたかったんだけど、これは西野カナサイドの承諾って得てるの?
 
神林
得てないです。
 
権八
頼むよー(笑)。向こうの立場で言うとあえて敵にディスらせて炎上することで自分を浮上させる手法もあるし、どっちだろう?て聞きたかった。無許可なんだ(笑)。世の中には西野カナちゃんのファンもいっぱいいるわけじゃない。こういう内容をよく有楽製菓さんは許したよね。
 
神林
本当にそれがすべてだと思います。
 
福里
権八さんがブラックサンダーを絶賛するポイントはやっぱり今の時代をつかんでいるところですか?
 
権八
今ってラップバトルに限らず、いろんなところでバトルが勃発してますよね。政治の世界でも菅官房長官VS前川事務次官とか。文春砲にしても何でもそうなんだけど、次から次へと、少し前だと考えられなかったようなおもしろすぎる話題が起きまくってる。世の中で起きてる事件やニュースが話題になっている時に、広告にもそれに匹敵するような話題がないと世の中で埋もれちゃうと思うんですよ。その点、ブラックサンダーは「西野カナをディスってるらしいぞ」みたいに、こっちから観に行きたくなるコンテンツになっている。トランプが大統領に当選しちゃうようなある意味「底が抜けた」何でもありの世の中で、このくらいえげつない強いエンターテインメントをやってるのが素晴らしいし、それが新人の仕事というのはびっくりですね。ちなみに「会いたくて会えなくて会いたい」はクリスマス篇なんですけど、この続篇にバレンタイン篇があって、そっちはバレンタインみたいな広告代理店が仕掛けるくだらないイベントに踊らされるお前らは全員バカだっていう、身も蓋もないメッセージで幕を開ける。チョコレート会社がよくそんな本当のことを言えるなと(笑)。
 

 
福里
神林さんはこれを考えた時、さすがにちょっとやりすぎかなと思いました?それともまだ足りないくらい?
 
神林
完全にやりすぎたと思いました。
 
(会場爆笑)
 
権八
神林君さ、西野カナちゃんの気持ち考えた?考えてないでしょ(笑)。でも、TCCの審査会ではクリスマス篇がほんとにウケていたので、受賞コピーは「会いたくて会えなくて会いたい」でもよかったと思う。
 
福里
ブラックサンダーは企画の強さだけじゃなくて、ラップ歌詞の言葉の選び方もよかったということですよね。藤本さんはブラックサンダーについてどう思いました?
 
藤本
やっぱりクリスマスバージョンは笑っちゃいました。僕はわりと単純で、笑わされたら負けと思っているので。もちろんラップの完成度も高かったと思います。
 
藤田
福里さんはどういう印象を持たれましたか?
 
福里
僕はじつを言うとそれほどいいと思わなかったんです。そういう意見の審査員は他にもいて、どうしてそう思うのかちょっと話してみたら、リア充の人はおもしろく観ているけど、非リアの人はそれほどおもしろく観てないんじゃないかという結論に落ち着きました。権八さんなんかはもうリア充の権化みたいな人なので(笑)、ものすごくよろこんでますけど、私のような非リアの人間からすると、笑っちゃうほどおもしろくはないというか。と言っても、非リアをバカにしているからムカつくってことではないんですよ。非リアがリア充と同じ土俵で戦うというのがそもそも違うんじゃないかと思うわけです。違う土俵に立ちたいというのが非リアの前提なので。
 
権八
なるほど。
 
福里
実際、ブラックサンダーは審査員全員が諸手を挙げて絶賛したわけじゃなくて、新人賞を決める1回目の投票では12位だったんですね。例年だったら新人賞受賞作の中から上位5位くらいまでで最高新人賞を決める決選投票をおこなうので、ブラックサンダーは間違いなく漏れていたはずなんですけど、今年はなぜか上位12位までで決選投票をやることになった。その方式にしたのが、まさにここにいる藤本副審査委員長なんですけど。
 
藤田
どうして12位まで残そうと思ったんですか?
 
藤本
TCC賞にしても新人賞にしても、最初の投票と決選投票で順位が入れ替わることはわりとよくあるんです。やっぱり最初の投票では「ベストの1作品を選ぶ」という意識で票を入れてないので。だから今年の新人賞では12位と13位の間に票が離れているところがあったので、審査員のみなさんにはかりながら、ちょっと多めに残して決選投票にしました。いつもはそんなに多く残さないといろんな人から言われましたけど。
 

 
福里
つまり、12位まで残して決選投票をしたら、12位が最高新人賞になったという、大逆転の結果になったわけです。今年の最高新人賞の決まり方はけっこう劇的でしたね。ただ、会場で神林さんの作品が流れたあと佐々木宏さんがすぐに「最高です。これが絶対に最高新人賞です」と言ったり、その流れで秋山晶さんも「これが最高でいいんじゃない」とおっしゃったりして、最初から熱烈に支持している方は多かったです。そういう意味では審査員全員の圧倒的な支持というより、10人くらいの審査員が強烈に神林さんの作品を推したという感じですね。神林さんとしてはそういう賛否両論分かれるような作品が最高新人賞を取ったというのはむしろ狙い通りですか?
 
神林
やっぱりそのほうがうれしいですね。
 
福里
ですよね。
 
神林
でも、まさか最高新人賞とは思ってませんでした。
 
福里
神林さんの中では、イラッとする感情がものをつくる時の原動力になっていたりするんですか?
 
神林
いえ、そんなことは全然ないです。
 
権八
福里さんのボスにも批評的な部分がありますけど、ブラックサンダーにはむき出しの批評精神を感じます。世の中に対して戦いを挑んでいるというか。その一方で「CIAOちゅ〜る」みたいなかわいいものがあって、彼をどう捉えていいのかわからないんですよ。「あれれ?いったいどっちなんだ!?」みたいな(笑)。
 
福里
そのかわいさを支持する人もいるんです。たとえば一倉宏さんはネコ好きということもあって「CIAOちゅ〜る」のほうを絶賛されていました。一倉さんもおそらく神林さんを最高新人賞に入れていると思いますが、それは「CIAOちゅ〜る」に入れたということでしょうね(笑)。
 
権八
僕は新人賞の一次を在宅審査していて、ブラックサンダーは素晴らしいと思って、すぐに出演しているMCニガリというラッパーのことを調べてみたんです。そしたら彼は高校生ラップ選手権を2連覇しているような天才的なワードセンスのラッパーでした。神林君が歌詞を書く時に彼の意見を聞いたり、取り入れたりはするの?
 
神林
向こうからの意見とかは全然ないので。
 
権八
マジで?俺はこういうことが言いたい、みたいなことはないの?
 
神林
全然ないです(笑)。
 
権八
歌詞にNGとかもないの?
 
神林
何でもやってくれます。韻の調整をお願いすると即興でやってくれたりします。
 
権八
そうなんだ。審査員の中にはブラックサンダーの歌詞はコピーライターが書いたんじゃないと思っている人もいたので、今日その話が聞けてよかった。
 
 
新人賞の審査基準って何ですか?
 
藤田
今日は会場のみなさんからたくさんの質問をいただいています。僕がそれをまとめたので、ここからはみなさんに質問を投げかけたいと思います。最初は「新人賞の審査ではどのような議論がおこなわれて、審査員はどのようなことを考えて選んでいますか?」。福里さん、いかがでしょうか。
 

 
福里
TCCの審査では議論は一切おこなわれないんです。これはTCC賞の特徴のひとつでしょうね。同じ広告賞でもACCは審査員が議論をしながら賞を決めていくんですけど、TCCは審査員の数が多いこともあり、議論がしにくい。それと、議論をしないもうひとつの理由は、コピーというのは書いた人との距離が近いので、コピーを否定すると書いた本人を否定するみたいになってしまうところがある。だから、そんなに気楽にコピーを肯定したり否定したりといった議論がしにくいんですよね。とにかくTCCは投じられた票の数がすべてです。この質問について、藤本さんはどうですか?
 
藤本
新人賞の評価基準として審査会の時に言われたのは「新人賞にふさわしいかどうか」という非常にシンプルなものでした。それ以上はひとりひとりの審査員の基準に委ねるということですね。福里さんがおっしゃられたように審査会ではあまり議論はしないので、こういう場所で審査員同士がしゃべらないと個々の審査基準ってまったくわからないんですよね。
 
藤田
なるほど。権八さんはいかがですか?
 
権八
コピーって仕事によってものすごく違いが出ますよね。社会性のあるものもあれば、冴えたギャグもあれば、ジーンとさせるものもある。だからひとつの基準で判断するのが難しい。なので、僕は単純に数値で決めています。見た瞬間に10点満点で何点か、というふうに。
 
福里
権八さんは今感覚的に審査しているように話したけど、実際は審査会場でものすごく真剣に見ていますよ。
 
藤本
いつもいちばん最後まで考えてますよね。ああいう時、何を考えているんですか?
 
権八
これがいいとすると、何であれはダメなんだとか、いろいろ考えちゃうんですよ。あれこれ自問自答しながら制限時間ギリギリまでやってしまいます。
 
福里
TCC新人賞の特徴として、ただ賞を与えるというだけでなく、東京コピーライターズクラブの新たな会員を選ぶという側面があるんですね(※)。作品をひとつではなく複数出してもらうのも、その人の総合力を見てプロのコピーライターとしてふさわしい実力があるかを判断するという意味合いがあります。そういうところは他の賞とずいぶん性質が違いますね。
(※)新人賞を受賞すると会員に選出されるというTCCのルールのこと
 

 
藤田
たしかにそうですね。
 
福里
ただ、本当に審査員によって基準がバラバラかと言うと、やっぱりそんなこともなくて、「新しさ」というのはひとつの大きな基準でしょうね。審査員ってベテランが多いので、見たこともないものを見せられると「これは自分には思いつかない」と思ってしまう。新人賞を取ろうと思ったらまずはそこをめざすべきですね。ベテランの審査員たちに「このままじゃ俺たちマズいかもしれない」と思わせるようなものを。
 
権八
去年の最高新人賞の長崎バスはある意味今年とは真逆でしたよね。非常にオーソドックスな広告で否定するところがなく、票を入れざるを得ない。満場一致で文句なしみたいな。
 
福里
でも、どこかで新鮮さも感じたんですよ。「名もなき一日を走る。長崎バス」という堂々としたキャッチフレーズが真ん中にあるオーソドックスな広告でありながら、全然古臭く感じない。コトバの使い方の古臭さも含めて、一周回ってむしろこれって新しいかもしれないと思ってしまうところがあって。
 
藤本
確かに長崎バスは最近あまり見ない感じの広告で、あきらかに他の広告と違って見えました。そこがやっぱり目立ってましたね。
 
福里
だから、最近の広告でいうと、のんさんがただ画面を見て、じっと立っているだけという「愛と革新。LINEモバイル」のCMをもし新人がつくっていたら、間違いなく来年の最高新人賞を取ると思います。実際は山崎隆明さんと児島令子さんがつくっているわけですが。とにかく、新しいものをつくるのが新人賞の王道でしょうね。もちろん、コピーの技で勝負したいという人もいるでしょうし、それもTCCはちゃんと評価します。とはいえ、巧いコピーはいっぱいあるのでなかなか差がつきにくいのも事実で、一票差で新人賞に漏れたコピーが新人賞を取ったコピーよりあきらかに劣っているかというとそうでもない。そこは地続きの勝負になるので、厳しい戦いにならざるを得ませんね。
 
藤本
そこで勝負すると損という感じはありますね。年鑑を見ていると巧いコピーが新人賞を取っているから、どうしてもそういうコピーを書いてみたくなる。でも、審査をしてわかったのは、巧いコピーはいっぱいあって、その中で目立つのはすごく大変ということ。「こういうコピーが書きたい」と思って年鑑を見るんじゃなくて、「ここにまだないコピーを書こう」と思って見るほうがいいかもしれない。
 
新人賞を取れる取れないの差って何ですか?
 

 
藤田
今のおふたりの話に通じる質問もありました。「新人賞と一次通過止まりの差はいったい何だと思いますか?」。「過去の名作に似ていたり、どこかで見た切り口のものが受賞していることもあると思います。そんな中で受賞作と受賞できないその他大勢の差ってどこにあるんでしょうか?」。権八さん、いかがですか?
 
権八
どこに差があるのか、僕もわかんないですね。ただ何ていうんだろう、自分がこうしてやろうとか、自分はどう考えるかとか、つねに「自分」を主語にして考えれば、どんな仕事でも自分の中のモヤモヤしたものがゴリッと出ると思います。世の中にアンテナを張って、いろんな事象を自分の中に取り込んで咀嚼すれば、他とは違うコピーが書けるんじゃないかと。
 
福里
「自分はこう思う」を代表するのが、まさにこの会場にも貼ってある、earth music & ecologyの児島令子さんのコピーですね。
 
権八
そうですね。藤本さんの「負けるもんか。」とかも。
 
藤本
僕は評価されずに悶々としている時期が長くて、自分の書いたコピーを評価していただけるようになったのはつい最近なんですけど、評価されるものってやっぱり自分が本気でそう思って書いているんですね。「負けるもんか。」の「たいてい、努力は報われない」というのも、新人賞を取る前の自分の気持ちをコピーにしたものだし、ベルリッツも英語がしゃべれない自分の劣等感が根底にあります。
 
 
新人賞の出し方にコツってあるんですか?
 
 
藤田
続いての質問です。「最大5つの出品枠にどのようなものを選べばいいのか、いつもギリギリまで悩んでしまいます」という質問というか、悩みが来ています。
 
福里
「これは自分の仕事だ」と納得できるものを出すことでしょうね。賞を取れるか取れないかなんていくら考えてもわからないので、「自分はこれで取る」と思えるものを出すのがいいと思います。私が新人賞に出す時に思っていたのは、先輩の手が加わってないものを出すということでした。先輩の意見がちょっとでも入っていると、あとで「あいつが取れたのは俺のおかげだ」みたいなことを言われかねない(笑)。あと、CMの場合重要なのが出品の順番だと思います。いちばん最初がつまらないと「この人はダメなんじゃないか」と思ってしまう。だから1本目にいちばん自信のあるものを入れたほうがいい。
 
藤本
審査員をやってみて明快に思ったのは、よくないものを混ぜないほうがいいということですね。最大で5点出せるわけですけど、「もしかしたらこれを評価してくれる人もいるかもしれない」と無理矢理枠を埋めようとしないで、自信のあるものが3点だったら、その3点に絞ったほうがいいと思います。審査する側からすると、すごくいいものがあっても他がいまいちだと「この人大丈夫かな」と思ってしまう。出品する点数が少なくても目立つものがあれば審査員は必ず見ているので。
 
権八
それは本当にそうですよね。同じ人が出しているのに、いいものとよくないものが混じっている時、この人の実力はどっちなんだろうといつも迷う。あと、出品する時にみんなバランスを考えるんでしょうね。去年宮崎県小林市の「ンダモシタン小林」っていうPR動画でTCC賞を取った村田俊平君っていうCMプランナーがいますよね。
 
福里
はい、知ってます。最近テングになっているという・・・(笑)。
 
権八
彼は新人賞を受賞した時に「英進館」という塾のおもしろいCMの他に、JAのまじめな広告も出していた。村田君としては固い仕事もできることをアピールしたかったんだろうけど、審査してて、おもしろいものが得意という彼の持ち味で固めるという手もあったかもしれないと思いました。まあ、結果的に新人賞は取れたのでよかったんですけど。
 

 
福里
でも、僕はその逆もあると思っていて、おもしろいCMだけだとコピーの力があるかわからないと考える審査員もいるんですよ。おもしろいCMの他にちゃんとしたコピーのグラフィックがあると安心して票を入れられる。なので、村田さんの出し方がよくないとは一概には言えない気もしますね。
 
権八
そう言われてみると、まあ、僕も若い時は、出し方なんてわかってなかったし、村田に偉そうなこと言えないですね(笑)。ちなみに今も出し方は超下手ですが、新人賞をもらうまではほんと出し方が下手で、ある年なんか、新人賞には通らなかったけど、一般に出していた「明治おいしい牛乳」が当時の部門賞(今のTCC賞)の次点だったことがあって。「何でそっちを新人賞に出さなかったんだよ」ってまわりからずいぶん怒られました。
 
藤本
言葉がちゃんと目立っているかを気にして見ている審査員はけっこう多いと思います。やっぱりコピーの賞だから、言葉がちゃんと機能しているとひと目でわかる広告は強いですよね。
 
権八
神林君にひとつ聞いていい?どうして「ブラックサンダー」と「CIAOちゅ〜る」を一緒に出そうと思ったの?
 
神林
同じ人がつくってるとは思えないようなものを出したかったんです。こういうこともできるってことをアピールしたかったというか。
 
福里
でも、けっこう危険な賭けだったよね。一倉さんは「CIAOちゅ〜る」をよろこんでくれたからよかったけど(笑)。
 
神林
僕自身は「ブラックサンダー」だけでいこうと思ってたんです。でも、いろんな人に止められて。
 
権八
えっ、止められたの!?
 
神林
はい。
 
福里
それで「CIAOちゅ〜る」も出したってこと?
 
神林
そうです。「ブラックサンダー」を一緒につくっているプロデューサーからも止められました。「CIAOちゅ〜る」も出したほうがいいですよって。
 

権八
へぇー、まわりからはTCCはバランスを見てると思われてるんですね。必ずしもそうではないのになあ。
 
福里
でも、バランスを考えて、ものすごくコピーっぽいものを出すのなら理解できますけど、なぜそこで「CIAOちゅ〜る」なのか(笑)。
 
神林
先ほど福里さんがおっしゃったように、僕も自分が書いたと胸を張って言えるものを出したかったんです。それが「ブラックサンダー」と「CIAOちゅ〜る」だけだったので。
 
福里
個人的には「CIAOちゅ〜る」は秒数が長すぎましたけどね(笑)。
 
 
若手の時、どんなこと考えてました?
 
 
藤田
では次の質問に移りたいと思います。「何がターニングポイントでしたか?」「コピーが書けるようになるまでにいちばん苦労したことは何ですか?」「若手はどうやってがんばればいいですか?」「若手の頃はどんなコピーライターでしたか?」。みなさんの若い頃の話を聞きたいみたいですね。
 
福里
こういう質問は若手時代に苦労された藤本さんにまず答えていただきましょうか。
 
藤本
僕の場合、ターニングポイントというのは人事異動ですね。新人賞をもらう前の年に異動があって、所属局が変わった。それで、それまでまったく接点のなかった伊藤公一さんというCDと一緒になって、ベルリッツやホンダの仕事をするようになったんです。僕の場合、CDが変わって、仕事の環境が大きく変わったので、どういう努力をするかというより、誰と仕事をするかが重要かもしれないですね。それはCDかもしれないし、アートディレクターかもしれないし、演出家かもしれない。いずれにしても若いうちは、この人と仕事をしたいと思える人について、一緒に仕事をするのがいいと思います。最初は何もできないと思いますが、若ければそれも許されるので。
 
福里
コピーに対する考え方が変わるようなことを伊藤公一さんに言われたんですか?
 
藤本
伊藤公一さんは細かいことは言わずに、大切なことだけをひとこと言うタイプです。ベルリッツの時もオリエンの帰りに「英会話の広告ってみんな真面目でつまらないから、おもしろいものがやりたい」と言われました。僕は根がまじめなので、そういうことを言われないとおもしろいコピーを書こうという意識は生まれなかったと思います。伊藤公一さんのような、自分にないものを持っている人に出会えたのは大きかったですね。
 
福里
人事異動以外で自分の環境を変えるにはどうすればいいんでしょうね。
 
藤本
局が違ってもCDに会いに行って、仕事をさせてくださいとお願いする積極的な若者もいます。それで実際に形になったりすることもあります。組む人を自分で探すというやり方もあるんじゃないかと思います。
 
福里
権八さんは苦労したことないですよね(笑)。
 
権八
いやいや、そんなことないですよ。そういえば、入社2年目くらいの時、僕は福里さんの研修を受けているんです。その時福里さんが自分の仕事を紹介した後、「でも、権八君あたりは自分のほうがおもしろいと思ってるでしょうけど」みたいなことを言って。
 
福里
そんなこと言いましたっけ?
 
権八
しっかり笑いをとってましたよ。僕は同期のクリエイティブ配属が20人くらいいるんですけど、とにかくその群れの中から抜け出すことばかり考えていました。打ち合わせにいる誰よりもおもしろいものを考えてやるとつねに思っていたし、まだひとつも仕事をしたことのない新人が電通の全ての作品を批評するという企画が社内報であったんですけど、そこですべての先輩の仕事を否定したこともあった。ここがよくない、俺ならこうする、と。とにかく生意気でした。そういうのが福里さんにも透けて見えたんだと思います。ということで、質問の答えとしては、今いちばんおもしろいものを考えてやるとか、世の中にないものをつくってやるとか、毎日そんなことを考えていれば、あまたいる若手の中から抜け出せるんじゃないかと思います。あとは、参考になるかわからないけど、僕は電通時代、古川裕也さんという人の下についてたことがあって。古川さんって今の電通のクリエイティブのトップにいる人なんですけど、古川さんとの打ち合わせではいつもみんなで雑談をして、爆笑して盛り上がっていた。僕の企画もみんなを笑わせるようなものばっかり出して。そんな毎日にわりと満足している時、たまたまタグボートの岡(康道)さんとタクシーに乗る機会があったんです。「最近どうだ?」と聞かれて、「古川さんとの打ち合わせは楽しいです」と答えたら、古川の優秀さは俺もわかるけど、古川を喜ばせるだけではダメだ、みたいなことを言われました。古川以外にも仕事をしてみたい先輩を見つけて、いろんな人たちのいいところをちょっとずつ盗めば、誰でもないおまえができあがるぞって。みなさんも好きなプランナーや憧れのコピーライターがいると思います。その人たちのエッセンスを盗むというか、なんで自分はこの人のコピーや企画が好きなんだろうと考える癖をつける。それをやり続けていれば、そのうちオリジナルの自分ができあがるんじゃないでしょうか。
 

福里
「コピー年鑑」を読む時も、なぜそのコピーがいいと思ったのか、自分で考えながら読めとよく言われますね。自分がいいと思う広告はどういうものなのかを知ることは自分を知ることでもあるし、いいものをつくるためにはまず、いいものとはどういうことなのかを知ることが大事なので。ちなみに、神林さんは今何年目ですか?
 
神林
5年目です。
 
福里
5年間やって、何か見えてきたものはありますか?
 
神林
僕はファミリーマートさんを4年くらい担当してきたんですけど、おもしろい企画を考えるというよりは、どうやったら商品が売れるかとか、ビジネスとしてどうするかを考えることが中心で、それはそれで勉強になりました。「ブラックサンダー」も「CIAOちゅ〜る」も、最初はおもしろい動画をつくってみんなを驚かせてやろうなんて思ってなくて、「CIAOちゅ〜る」の売上や「ブラックサンダー」のブランディングを本気で考えていました。商品からしっかり考えるという感じで。
 
福里
権八さんが首をかしげていますけど(笑)。
 
神林
いやいや、ほんとです。
 
藤田
福里さんに転機はあるんですか?
 
福里
私の場合、転機ははっきりとあって、まず30歳になった時に「自分には才能がない」と決めたこと。そして、わりとその直後に佐々木宏という人に会ったことですね。それまでは、もちろんおもしろいものをつくりたいと思っていたわけですけど、企画は全然通らないし、通ってもヒットしない。30歳になってそんな状況が続いている時に佐々木さんに会って、「君が自分でおもしろいと思ってるものなんて全然おもしろくない。自分がおもしろいと思うものじゃなくて、みんながおもしろいと思うものをつくるべきです」みたいなことを言われて。ちょうど自分には才能がないと決めた後だったので、その話がすごく腑に落ちた。あまりに自分の価値観に凝り固まってしまうと広がりが生まれないし、そもそもクライアントにも通らない。そんなことを佐々木さんに出会って初めて気づかされました。もちろん「俺はこう思う」ということを書いて、それが普遍性を持てば、それはそれで素晴らしいと思いますけどね。たとえば秋山晶さんは「井戸の中に入りなさい」とよくおっしゃってますね。井戸の中で自分自身と向き合い、孤独の極限に達した時に初めて普遍性を持つコピーが生まれる、というような意味だと思うんですけど。
 

藤田
なるほど、ありがとうございます。それではそろそろ終了の時間が近づいてまいりましたので、最後にみなさんから若手の方々に対してひとことずついただきたいと思います。
 
神林
僕もですか?僕自身がまだまだ若手なんですけど。
 
福里
じゃ、私から神林さんに伺っていいですか。これからどんなふうになっていきたいと思っているんですか?
 
神林
僕はニッチなものとか知る人ぞ知るみたいなのが本当に苦手で、日本中の人が知ってて、おもしろいと言ってくれるものとか、みんなを楽しませるものとか、そういうものをつくっていきたいと思ってます。
 
福里
それは広告としてですか?それともジャンルに関係なく?
 
神林
そうですね、機会があればドラマの脚本とかも書いてみたいと思います。
 
藤田
神林さん、ありがとうございます。では続いて権八さん、お願いします。
 
権八
僕は27歳でシンガタという会社に連れて行かれて、そのまま15年近く経つけど、その間ずっとと言うか今もいちばん下っ端なので、未だに若手気分が抜けない。なので、あまり偉そうなことは言えないんですけど、今は本当に言葉の力が重要な時代だと思います。広告のコピーに限らず、企業のあり方やおこないも全部言語として世の中に伝わるわけで、信頼していた企業に平気で嘘をつかれるようなこともいっぱいある。フェイクニュースとか、ポストトゥルースだとか言われるような、いったい何を信じたらいいのかわからない時代の中で、僕らはやっぱり言葉の力で戦っていくしかないと思います。今はSNSもあって、自分の思いを発信する場も他人の意見を聞く場もいっぱいある。言葉を武器にいろんなことに取り組んでいくという意識があれば、やれることはいくらでもあるので、ぜひ言葉と心中するつもりで格闘してほしい、ということを最後、僕自身に言って終わりたいと思います。
 
藤田
権八さん、ありがとうございます。では次は藤本さん、よろしくお願いします。
 

藤本
僕は新人賞を取ってまだ6年で、TCC的にはまだまだ若手みたいなものなので、若い人に向かって何かを言うのは難しいんですけど、自分の持ち味がある人がやっぱり強いと思います。新人賞の混合部門を見ていると、CMがあったりWEBがあったり、今の時代のアウトプットは本当に多岐に渡っている。若い人はついあっちこっち行きたくなるだろうけど、そんな時こそ自分というものをしっかり持つことが大切なんじゃないかと思います。それはコピーであったり企画であったり、人それぞれですけど。僕はよく組む同期のADに、「おまえは企画が下手なんだから、黙ってコピーを書け」と言われたことがあります(笑)。厳しい言葉のようでもあるけど、僕のコピーに期待してくれているということ。相手が自分に何を期待しているのかを意識して仕事に取り組むのが大事だと思います。
 
藤田
ありがとうございます。では最後に福里さん、お願いします。
 
福里
今の藤本さんの話は私もまったくそう思います。結局、今活躍している人って、ひとりの例外もなく自分の得意技を見つけた人なんですよ。とにかく若者は早く自分の得意技を見つけたほうがいいと思います。で、若手の人にひとことということですけど、広告がこれからどうなっていくのか、予言者でもないのでまったくわからないですね。ただ、ひとつ思うのはこれからを考えるヒントはまちがいなく過去にあるだろうということ。才能のあるさまざまな方たちがいい広告をつくるために格闘してきた歴史があって、日本でいちばん才能のある人たちが広告の仕事に集まっていた時代もあった。これからを知るにはこれからのことを勉強しようとつい考えがちですけど、むしろ未来のヒントは過去にあると思います。「コピー年鑑」みたいな本が存在する意味もそういうことだと思います。私が編集長を務めた2016年の年鑑はまだ在庫がありますし、Amazonで古い年鑑を買うこともできます。試しに80年代の年鑑を今見てみると、すごく勉強になると思います。最後は販促コメントみたいになっちゃいましたけど、「コピー年鑑」ご購入のほど、よろしくお願いします!(笑)
 
藤田
福里さん、ありがとうございます。ではこのあたりで本日のトークライブを終了したいと思います。福里さん、藤本さん、権八さん、そして最高新人賞の神林さん、どうもありがとうございました。パネラーのみなさんに拍手をお送りください。
 
(了)