《書籍紹介》歌集『ケモノ道』/ 柿本希久 著
歌集『ケモノ道』
柿本希久 著 出版社 : ながらみ書房 定価 : 2,700円(税込) 出版日 : 2017/2/27 |
TCC会員である柿本照夫(筆名柿本希久)氏はいまはもうコピーは書いていないと思う。われわれの世界からは離れて、東京の地からどこか西の方の山で作陶の日々を過ごされているとうかがっている。いわゆる、そういう悠々自適な隠居生活を送っていると想像していた。
しかし数年前に唐突に、陶芸での賞をいただいたというニュースを聞き驚いた。陶芸の賞って、そんなにあっという間にもらえるものなのか? というのが正直な感想だった。そしてその作品を拝見する機会があった。
なんというか「得体の知れない生きもの」をいくつも創作していて、これを窯で焼いたのか、というのがこれまた正直な感想だった。
深い緑色の、形容すればおそらくカメレオンのような陶芸作品がどうだと言わんばかりにこちらを睨んでいる。そしてその時「ああ、柿本さんて、こういう人だった」と記憶がよみがえった。
柿本氏は、マッキャンエリクソンで私がコピーライターになった際の最初のお師匠さんだった方である。なにか、こういうことを書くとじつに僭越ですが、笑、氏は、いつもなにかと格闘していたように思う。
コピーそのものもそうで、原稿用紙のマス目いっぱいに大きく3Bで書かれた濃い文字は、いつも少しどことなく威丈高な筆致で、それゆえに「誰にでも書けるものではない」という雰囲気をまとっていた。なんというか派手なのだ。主張が強いコトバが似合うコピーが多かった。コピーとはそういうものなのだということを日々教わっていたように思う。
そして私に対してもいつも「格闘するクリエイティブ」を求めていたように思う。なかなか大変な日々だったと記憶している、笑
そして、こんどは、そんな柿本氏が歌集を出版されたという。
装丁にはまたしても「得体の知れない生きもの」が飾られており、タイトルは「ケモノ道」と掲げられていた。
私には歌集に感想を述べたり、論評めいたことをする能力はまったくない。ただこの歌集を読ませていただくと、柿本氏がどのような人かがよく分かる。ひたすら氏の視点が伝わってくる。
いつもなにかと格闘し、得体の知れないものに興味を抱き、あたらしいコトバをみずからのものにしようと試み、いままでにないものをこの世に存在させようとしている。
他人とおなじことを拒否するような姿勢はいまも変わらない。
表現するメディアや対象物は変わってきたかもしれないが、ご本人は、なにも変わっていない。その本質においていまもなにかに抗っているのだと感じる。生命力あふれるケモノたちが通り、いつのまにかつくりあげてきた、結果としてのケモノ道。
はじめての歌集にもかかわらず、もしかしたらまたなにかの賞を獲ってしまうかもしれないという「得体の知れない予感」もする。
いちもつをぶら下ぐるごと顏の鼻わが天狗猿転生の花器
(第三章「未完のひと世」より選)
(溝口俊哉)
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<著者より>
言葉の原郷で詠う。
柿本希久(きく)の筆名で、このたび歌集を上梓した会員の柿本照夫です。コピーライターとして35年活動したあと、現在は、陶芸作家活動をしております。
その合間に詠んだ歌、五百首余りをまとめた第一歌集です。回想歌、作陶歌、日常詠の三章構成による編年体です。
いま若い人たちの間で、短歌はほとんど口語で発表されていますが、口語で詠むと僕はキャッチフレーズをつくっているような気になってしまうので、文語で詠み、旧カナ遣いで表記しています。文語で詠むと、はるか1300年前の万葉の時代につながっていると思え、日本語の源郷に辿り着いたような感じがします。
多彩で深遠な言葉の世界を多くの方に知っていただくことは、コピーライターとして生きてきた最後の勤めでもあると考えています。
多くの人が踏み固めた王道からモノを創り出すのではなく、論理の抜け道のようなケモノ道には多くの発見があります。ここから言葉を見つけ、アイディアを立ち上げていた方法論に気付いて、歌を詠んでいます。「ケモノ道」は、僕が考える発想のことです。
心情を洗いざらい詠う短歌は、いわば「恥さらしの文芸」でもありますが、自分の原点を忘れないように、表現者しての居場所から発信しています。アマゾンでお買い求めいただけます。よろしくお願いします。
自選五首「佯狂歌」
わがひと世予定調和を旨とせず痴ればむやうなケモノ道をゆけ
四十雀(しじふがら)鳴きたるのちに酒器掲げ森の饗宴ひかりを零(こぼ)す
舌鋒を武器に使ひし日は遠し日向ぼこする舌になり果つ
風止めど黄葉(もみぢ)は霏々(ひひ)と墜ちやまずかそけき音の荘厳を聴く
ひと塊(くれ)の闇雲を抱きわれはありゆゑに赦せよ佯狂(やうきやう)たるを
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