TCC会報出張所

《書籍紹介》読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術/田中 泰延 著

『読みたいことを、書けばいい。

 人生が変わるシンプルな文章術』

 田中 泰延 著

 出版社:ダイヤモンド社

 発行日:2019/6/13

 定価:1,620円(税込)

 

 

ひろのぶさんのことを思わず尊敬してしまうのは「糸井重里さんと対等に喋れる人物だ」という点である。こう言うと本人はやんわりと否定するが、少なくともハタからはそう見える。ぼくも糸井さんからとんでもない影響を受けたチルドレンの一人だと勝手に自認しているが、彼のようには振るまえない。BRUTUSの糸井重里特集号で、ご本人から「広告のことは谷山くんと話したい」と指名され、なんて名誉なこと!と歓喜したのだが、対談ではしどろもどろになって猛烈におちこんだ。そのときに痛感したことは、「同じ役割」のような人間でじぶんよりはるかに巨大な頭脳と対峙すると、ぼくがやれることなんて何もないよなあ・・という事実である(記事じたいは上手なまとめのおかげで、まあ読めるものにはなっていたが)。だからこそ、ほぼ日で糸井さんとイーブンな関係を保ちつつ言葉のキャッチボールを交わせるひろのぶさんには、素直に「負け」を認めてしまう。そういえば3年ほど前の宣伝会議賞のイベントでADの秋山具義さん、ミュージシャンのコムアイさんと「最近気になる言葉」というお題で座談会をしたのだが、その際のぼくのチョイスが糸井さんの「夢に手足を。」と、ひろのぶさんの「青年失業家」だった。いや、当時は肩書きのすがすがしいほどの臆面のなさぶりに感心してはいたが、ここまでの“大人物”とは気づいていなかったのだが・・

さて、書評である。発売以来、数々の絶賛がネット上や書店のPOPであふれまくっているベストセラーに、いまさらどんな言葉をつけ加えればいいだろうか。ぼくは献本していただく前にkindleで読みきってしまったのだが、「単純に面白い本」という意味では控えめに言っても何年かに一度レベルの読み物だろう。なんだかアタマの悪い褒めかたで申し訳ないのだが、その「単純な面白さ」かげんは、じぶんにとっては高校時代に出会った椎名誠のデビュー作「さらば国分寺書店のおババ」級(あの文体も当時、衝撃的だった)かもなあと感じいる。一方で、その視点が屈折しているようにみえて、基本的には「人間やこの世の中へのやさしさ」に満ちているところは「善意のナンシー関」みたいな方だなあと人物像が心に浮かんできた。一読すればわかるが、実はぼくなんかよりよっぽど深みのある教養人であることにも(イメージ戦略上隠しているのかもしれないが)感心しまくりだ。この一冊をきっかけに、先にあげた名ライターの先人たちと同じように、田中泰延ワールドが日本中に発信されつづけるのかは、まだわからない。ただ、勝手に予想を言っておくと、一般的にこの方の最大の魅力と思われているであろう現在の「面白すぎる」文体は、今後がらっと変わる可能性もあるのではないか。面白すぎることで表面からちょいひっこみ気味になっている「知性の本質」みたいなものを、よりけれんのない書き方で骨太に伝える本を、ドーンと上梓してしまったりするのではないか。ひろのぶさんの頭脳の埋蔵量は、そのくらいかなり、とてつもないものだと思うから。

(TCC会長 谷山雅計)

 

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《著者より》

帯を書いてくださった糸井重里さんが、肉団子を食べながら、

「この本、谷山さんに読んでもらって書評もらうといいよ。
きっと谷山さん、
『ええ、谷山です。読みました読みましたけどね、ええ、うん、谷山です』
って書いてくれるよ」

と谷山さんのモノマネをお始めになったんです。

落ちこぼれコピーライターのまま50歳になった僕ですが、
偉大なお二人から
「書くことは、愛と敬意」なんだと、
勝手に学んだ気がして、この本を書きました。

ちなみに、「糸井重里の谷山雅計のモノマネ」は、意外と似ていました。

田中泰延

 

 

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