リレーコラムについて

「書いとかないと忘れちゃうから」その④手袋を買いにいかれない

木村亜希

昔読んだ本を再読し、感想が変わるなんてことは
よくあることですが・・・。

新美南吉の「手袋を買いに」を子どもと読んでいた時のこと。
雪がふったので、子ぎつねのために人間の町に手袋を買いにいくことになり・・・

 その町の灯をみた時、母さん狐は、あるとき町へお友だちと出かけていって、
とんだめにあったことを思い出しました。およしなさいっていうのもきかないで、
お友だちの狐が、ある家の家鴨(あひる)をぬすもうとしたので、
お百姓にみつかって、さんざ追いまくられて、命からがらにげたことでした。
 「母ちゃん何してんの、早くいこうよ」
と子どもの狐がお腹の下からいうのでしたが、
母さん狐はどうしても
足がすすまないのでした。そこで、しかたがないので、
坊やだけをひとりで町までいかせることになりました。

・・・ん?

・・・おや?

・・・だよね?

うーん、ダメだ、2020年の東京で子育てしている防犯意識で言うと、
ダメです、子どもをひとりで町に行かせちゃダメになっちゃったんです
(きつねが白銅貨持って手袋を買いにいくのはファンタジーじゃん、
というのは置いておいてですよ)。

時代が変わり、世の中が変わり、自分も変わりました。
もはや感情移入するのが、完全に親狐側。
GPS発信機も持たせず、夜に1人で人間の町には・・・などと考えてしまい、
大好きな話の台無し感がすごい。

母がなくなって今年で10年になりました。
かつてこの話を読んで 子どもの狐として町に行き、無邪気に
「母ちゃん、人間ってちっともこわかないや。」
と言う側にいられた時のことを、遠い町の灯のように思い出す2020年なのでした。

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