あの人を思い出す8月31日。
もう30年以上前。僕が新卒で入った西鉄エージェンシーという会社はあの頃はかなりムチャで、1週間の社外研修(電話の応対や社会人としてのマナーといった、とても今の研修とは比べられない原始的でハラスメント満載な内容でしたがわりと楽しかったです)のあとすぐに担当が決まって現場に出されました。初めての競合プレゼンはその年の夏。クライアントは福岡都市圏生活雑排水対策連絡会議というとても長い名前の行政機関で15社競合。僕と組まされることになった営業は大隈さんという一回りは年上だったのかなぁ。怪しい雰囲気の長髪パーマ黒メガネで、僕のことを「コピーの坊や」と呼びました。「坊や」と呼ばれたのはあの人だけですね。全く出世に興味がなく、財務系の資格か何かを持っていてたぶん副業をされていたと思います。不思議な佇まいの人でした。何でオレが新入社員と組まされるんだよというのがそのときの心境だったはずです。
プレゼンのテーマは単純明快「川をきれいに、ゴミを捨てない街づくり」。媒体はB2ポスター。僕の企画は童謡「めだかの学校」のラストの「みんなでおゆうぎしているよ」を替え歌で「みんなでおそうじしているよ」にしてビジュアルはその頃福岡で人気のイラストレーター河野恵子さんのかわいい絵でめだか達が川の掃除をしている内容でした。ビギナーズラック、勝ってしまいました。先輩や上司にほめられて、いい気になりながら実作業。入稿間際に大隈さんから「坊や、これちゃんと権利はクリアしてるよね?」と聞かれ「権利て何ですか?」とド素人の受け答えをする僕に「ったく、坊やが悪いんだけど、何にも教えてないもんな、この会社は・・」と言われそれから著作権についての長いお話があって人を介して調べたところ(ネットなんて全く皆無の時代です)作詞をされた茶木滋先生は当時まだご存命で急いで手紙を書きました。するとすぐに達筆で丁寧なお返事がありました。「めだかの学校を使ってもらうのはかまわないが、歌詞を変えるのは許されない、そのまま使ってください。」というのが主な内容でした。困りました。それでは広告になりません。
会社の裏にあった焼き鳥「鳥上」のカウンターで大隈さんは僕に「とにかく坊やは明日までに何とか知恵を絞ること。そしたら俺がそれを持ってクライアント行ってくるから」と言われ、「はい、なんとかします」とお酒の力で答えたものの五里霧中。翌日提出したのは、歌詞(コピー)は「おゆうぎしているよ」と原作のままでそのすぐそばのめだかのイラストの口から吹き出しで「おそうじもね」と言わせた似て非なるものでした。「ま、仕方ねぇな、これで謝って来る」と大隈さん。「僕も一緒に謝ります」と言うと、「坊やは来ないほうがいいから待ってな」と遮られました。
結果どうなったのか。「散々文句言われたけど、坊やのアレで何とかなったよ。ったく、夏休み最後の8月31日に何にもできていない子どもの宿題に付き合う親の心持ちだよ」と二日連続の焼き鳥「鳥上」で言われたことを思い出した今日8月31日です。
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