リレーコラムについて

あの人を思い出す9月1日。

門田陽

僕が新卒で入った西鉄エージェンシーという会社は、当時150人位いたと思います。大きなプロジェクトは例外ですがほとんどの仕事は営業の担当1名とクリエーティブの担当1名がタッグを組んで行いました。どこに行くにも2人1組、相棒というかまるで刑事ドラマのようなシステム。入社2年目の途中から僕は角満雄(すみみつお)という先輩と組むことが多くなりました。30代前半の一言で言うと面白いというか無鉄砲な人でした。

 

全く角さんという人は、30年ぶりに思い返しても笑ってしまいます。30代の前半までに主任から課長代理そして課長と出世したので仕事はまずまずだったのでしょう。ほんとはそこが大事ですが、角さんが本領を発揮するのは夜の帳が下りてから。あ、角さんの見た目はバタ臭い昭和のやさ男。いつもどこで買ったのかが気になるド派手な靴下を履いていて、本人はミック・ジャガーを意識していました。なぜか女子には人気があってトラブルが絶えません。角さんと一緒に会社の近くにある飲み屋に入るとまずお店の大将やマスターから「帰って」と言われます。とにかく出禁の店が多かったです。なので会社から離れた店に行くのですが、一緒にタクシーに乗ると道順のことで運転手さんとよく揉めるのでタイヘンでした。

 

入社3年目。角さんと一緒にバルセロナにロケに行きました。天気にも恵まれ撮影は快調。予備日だった最後の日は完全オフになりました。前日よく飲んだわりには早く目が覚めて朝6時半朝食前にホテルのそばの大きな公園に散歩に行きました。しばらく歩くとサングラスをかけてベンチで足を組み新聞を読んでいる角さんを発見。「おはようございます」と言うと「ブエノス ディアス」と言われました。「何やってるんですか?」「見りゃわかるだろ新聞読んでだよ」「それスペイン語の新聞ですよね?」「そりゃここはスペインだもんな」「一文字も読めないでしょ?」「バカ、なりきれば何とかなんだよ。今オレいいこと言ったな、覚えとけ」と言われましたがどこが「いいこと」だったのでしょう。

 

入社4年目。「出せば他人」という名言(いや暴言)を吐いていた角さんもめでたく35歳で結婚しました。お相手の女性は僕の学生時代の後輩で学校でも評判の美人。二人をよく知るということで、披露宴でのスピーチを僕もすることになりました。どう言おうか迷っていたら宴前日に角さんから呼び出され「二人の馴れ初めは去年の夏、都ホテルで開催のガウディの夕べという美術展になっているからひとつよろしく!」と言われました。いやいやいや、天神で酔っぱらった角さんがそのとき偶然タクシーを拾おうとしている奥さんの容姿に一目ぼれして強引にタクシーから降ろしてナンパしたのが馴れ初めです。だってその場に僕はいたのです。もう時効だからいいと思いますがあのときウソの馴れ初めにうなずかれていた両家のご親族のみなさん、ごめんなさい。そんないつも災いを巻き起こす角さんは今日防災の日が誕生日だったなぁ、と思い出した9月1日です。

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