いじめをなくす方法
高校1年生。大阪。
その日、僕は小さなライブスタジオに立っていた。
スポットライトが熱い。
エメラルドグリーンのギターが光る。
「みんな。今日は来てくれてありがとう。
ドラムの子が腕を痛めて大変だったけど、
今日のために練習してきました。
それでは、聞いてください。
HOWEVER。」
モテようと思った結果。
15歳の僕は、
前髪にストレートパーマをあてて
HOWEVERを歌っていた。
そう、僕はダサかった
でも、ダサいながらも、
一生懸命にモテようとしていた。
そして、ちょっとだけモテた僕は、
2人の女の子に告白された。
でも、誰とも付き合わなかった。
僕の目標はモテることだったからだ。
そして、もっともっとモテるように頑張った。
その結果。
僕は、1人になった。
異変に気がついたのは、
いつも一緒に帰っていた友達が
先に帰った時だった。
その日から、
地獄の日々がはじまった。
おはようが教室に虚しく響き、
休み時間はケータイを見て過ごし、
お昼ご飯は誰もいない場所を探す。
地理のノートは提出日になくなり、
柔道着の帯はゴミ箱に捨てられていた。
そんな僕が、いちばん落ち着ける場所は、
誰もいない、職員用トイレだった。
休み時間になると、
みんなが使う学生用のトイレを通り過ぎて、
わたり廊下を超えて職員用トイレに行く。
そんな日々が2ヶ月ぐらい続いたある日。
いつものように職員用トイレでぼーっとしていると、
ひとりの少年が入ってきた。
中学時代からの同級生、N君だ。
「おう。」
「・・・おう。」
「久しぶりやな。」
「・・・うん。」
「てる、大丈夫か?」
「え。」
「水泳部、くるか?」
とてもぎこちない会話だった気がする。
久しぶりの会話で、言葉がうまく出なかった。
そのかわり涙が出そうになった。
その日、僕は軽音部を辞めて、水泳部に入った。
水の中は、居心地が良かった。
音のない世界。
誰とも話さなくていい。
無視もされない。
ただ、みんなで泳ぐ。
それだけで、仲間になれる。
部活が終わると、水着をはいたまま部室でゲームをした。
帰りは、大盛りのカツ丼を食べた。
朝いちばんのプールは50m先まで青く透き通っていて、
プールの底に寝転んで空を眺めた。
いつの間にか、僕の毎日はキラキラと光りはじめていた。
時は過ぎて、大学生。
唯一内定をもらった電通の入社試験。
ホワイトボードに書かれていた課題は、
「いじめをなくす方法」だった。
その課題をみて、
いじめをなくす方法はないと思った。
どんなにいじめがかっこ悪いと伝えても。
いじめはなくならない。
いじめが起こっているその現場では、
いじめを、いじめだと決める人がいないからだ。
僕でさえあの日々をいじめだと認めたくない。
でもいじめを乗り越える方法は知っていた。
それは、友達をひとり作ることだ。
そのひとりが逃げ道になる。
僕はその話を面接官にして内定をもらった。
その時、僕ははじめて「いじめられて良かった。」と思った。
絶え間なく注ぐ愛の名を永遠と呼ぶことができたなら、
僕は、本当の友達ができるまでの道の名をいじめと呼びたい。
その道を歩くのはつらいけど、
その特別な体験はきっと自分の力になると信じたい。
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こんな個人的な話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
リレーコラム3日目です。
1日目、2日目と家族の話を書いたら、少し勇気が湧いてきまして。
もしかして今なら、この体験を目を逸らさずに書けるのではないか。
そう思い、高校時代の話を書いてみました。
僕は、よくポジティブだと言われるのですが、
その原点はここにあるような気がします。
ちょっと気が重くなったので、
次はもうすこし明るい話を書きたいと思います。(笑)
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