ぼうけんしゃたち
問題:
「あなたの子ども時代のエピソードについて書き、
最後にタグラインを1行つけて、自分の名前を広告しなさい」
20代のときに受けたクリエイティブ転局試験の作文課題。
そこに書いた子ども時代の何気ないできごとが、
コピーライター人生をスタートさせてくれた。
原稿用紙にどんな回答をしたのか、
記憶をたどって書いてみようと思う。
* * *
答:
ぼくらは冒険に出発した。
パーティーは4人。
ゆうしゃの斎藤くん、せんしの今井くん、
そうりょの速水くん、まほうつかいのぼく。
2時間目と3時間目のあいだの「20ぷんやすみ」に
校庭というフィールドをぼくらは旅した。
冒険には欠かせないものがある。
地図だ。
出発の前夜、家で「じゆうちょう」に地図を描いた。
B5サイズの白い紙に、鉛筆で描かれた1枚の地図。
でも、真新しい地図は、どこか味気ないのだ。
もっとなにかこう、“いにしえの”感じがほしかった。
そこでぼくはある「まほう」を思いついた。
キッチンへと向かい、持ってきたのは「しょうゆ」。
それを真っ白な地図に、ドボドボと注いだ。
しょうゆの香ばしいにおいが広がる。
いい具合にしなびてきたら、
しわくちゃになるまで握りつぶした。
仕上げはストーブ。パリパリになるまで乾燥させる。
最後はお好みで、もうひと握り。
するとあら不思議、宝箱から出てきたような
“いにしえの”宝地図のできあがり。
どうやらこの地図のどこかに、
とんでもない「おたから」が隠されているらしい。
このアイテムを片手に、ぼくらは校庭というマップを旅した。
ひとたび冒険に出かけると、
何年間も過ごしてきたはずの校庭は、
未知なるものにあふれていた。
百葉箱という「ほこら」の中を覗き込んだ。
卒業生がつくった謎のトーテムポールを「しらべた」。
体育館の裏という「ダンジョン」を攻略した。
裏門の植栽という薄暗い「森」へ迷い込んだ。
「今度はあっちだ!」
およそ20ぷんのあいだ、いにしえの地図を頼りに、
ぼくらは紛れもなく冒険をしていた。
それは大人の時間の「20分」とは違う「20ぷん」だった。
冒険はチャイムと共にエンディングを迎えた。
さて、ぼくらは冒険で何を見つけたのだろう?
宝の地図に記された「おたから」は、
果たして見つかったのだろうか?
なんにも見つからなかった。
当然だ。
そもそも「おたから」など最初からなかったのだ。
でも、それでじゅうぶんだった。
しょうゆ香る宝地図を片手に冒険した、
あの20ぷんそのものが「おたから」だったのだから。
しょうゆひとつで世界は変わる
高橋尚睦
* * *
こんなようなことを書いたと思う。
いま見ると全然オチてないので恥ずかしいかぎりだが、
それでもこの試験を経て、
念願のコピーライターになることができた。
あのとき「冒険」をしていなかったら、
クリエイティブ試験の結果も違ったかもしれない。
「しょうゆひとつ」で、
少なくともぼくの世界は本当に変わってしまった。
ということで、
おしょうゆのお仕事、お待ちしております。
* * *
はじめまして。2020年入会の
高橋尚睦(よりのぶ)と申します。
新人賞同期の猪飼ひとみさんから
バトンを受け取りました。
猪飼さん、コラムすごく良かったです!
まだ読まれてない方は、ぜひ読んでみてください。
そうそうたる方々が書いてきたこのリレーコラムに
自分が名前を連ねてよいのだろうかと思いつつ、
今週ぶんを担当させていただきます。
お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いします。