リレーコラムについて

まだ「知られてない」を書くコピーライター。

戸部二実

 TCCでいただいた新人賞のクライアントは、東レさま。割と有名企業を担当させていただくことが多かったリクルート時代。起業してからは、ベンチャーや中小企業など、「知られていないお客様」が増えました。それは、まるで宝探しのような日々。そして、お客様と関わる中で気づいたのが、「知られていない」を扱うコピーは、いわゆる有名企業や商品コピーを書くスタンスと少し違うということでした。
 自社のアイデンティティを規定するコピーを書くときに。まずは、社名では「なに屋」かわからないので、ある程度、匂わせることが必要だったり。採用も意識したものが求められたり。と期待されるもの、背負うものも多い・・ということもあるんですが、最近、意識するようになったのが、「いかにぴったりの服を選ぶか」みたいな感覚です。
  「葡萄がかみつく」をきっかけに踏み出した企業や事業の方向性を指し示すコピーの道は、なんといっても、そこで働く人が「そうだ!」「これ、自分のことだわ」と思ってもらえないとしょうがない。どんな素敵な言葉でも、遠すぎる未来だったり、ダブダブの洋服みたいに身につかないとまったく価値がない。一方で等身大のままでも夢がない。普段着の延長みたいな言葉やデザインだと、馴染んでいて安心だとしても伸び代がない。「私ってやっぱり、こんな程度なのね・・」と悲しくなってしまうかも。
 というわけで、この仕事はどこか、ちょうどいい背伸びができる「ぴったりの服」を選ぶスタイリストみたいでもある。
 創業から日の浅いスタートアップやユニークなビジネスモデルの企業だったら、洗練されていないけど、面白いことしでかしそうなヤンチャで危うげな人間のような存在かもしれない。
あるいは、イリオモテヤマネコとか、ヤンバルクイナとか。タスマニアデビルみたいな。生息域は狭いけど、なにか尖っている固有種でもある。そんな個性剥き出しの原石たちに、どんな言葉をプレゼントしたら、嬉しくなって「がんばろう!」「もっと上を目指すぞ」という気分になるのかを考える。
 そんな感覚がちょっと、ほかと違うのかな。
さて明日は最終回、これまだ意外なコピー脳の使い方で締めくくれればと思います。

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