リレーコラムについて

カジノのこと

矢谷暁

カンヌの街はいわゆる「映画祭」と

「広告祭(今は別の名称になっています)」が開かれる5~6月は

世界中からたくさんの人がやって来ますが、

それ以外の月は、地方の街だし

けっこうのんびりとしているのでしょうか。

 

カンヌは世界的にも名前が知られている有名な観光地だからか、

フェスティバル会場の横にはカジノが併設されています。

20年ほど前ヤングカンヌで行ったときに一度入ってみましたが、

お客さんはあまりいなくガラーンとしていて、

スロットマシーンを少しやっただけで帰りました。

 

僕は別にギャンブラーというような

賭けごと好きではないのですが、

カジノの雰囲気はわりと好きで、せっかく行ったのなら

スロットマシーンのような「機械系」ではなく、

ディーラーがいるカードゲームやルーレットで遊びたい派です。

それは学生時代にバイトでディーラーを

短期間やったからというのも大きく、

カードさばきやチップさばきに

プロの熟練度を見ることができたり、

対戦感というか緊張感のあるところが

きっと好きな理由なのだと思います。

 

カードゲームの「バカラ」や「ブラックジャック」には

もちろんディーラーがいてスリリングな対戦感を味わえますが、

じつは彼らは、あくまでも決められたルールに則って

カードを開いていくだけなので、

そこに駆け引き的な要素は一切ありません。

 

極論すると、機械でできたディーラーでも、

シャッフルされたカードをルール通りに配れば

そうしたカードゲームはできてしまいます。

もちろんディーラーたちは

やや複雑さを伴うゲーム進行もするのですが、

今ならAIとかを使えば、

それすら難なくできてしまうのだと思います。

 

そんなわけで、僕が断然好きなのはルーレットです。

 

ルーレットの話になると、

「凄腕のディーラーだと、狙った数字に球を自在に入れられるんでしょ?」

と言う人もいますが、それはおそらく不可能で、

腕のいいディーラーができるのは「狙ったピンに当てること」です。

 

ルーレットの盤面には数字の書かれた「ホイール」があり、

その外側には「縦向きのピン」が合計4つ、

時計でいうと12時、3時、6時、9時の位置に配置されています。

さらに、それぞれの縦ピンの中間には

「横向きのピン」が合計4つあります。

腕の立つディーラーは、その中から狙った縦ピンに

投げた球を当てることができるのです。

 

ピンに当たった球は飛んだり跳ねたり

予測不能なアクションをしますが、

だいたいは近辺にある数字に落下します。

「ピンポイントの数字」は狙えずとも、

「エリア」であれば狙える、というニュアンスです。

 

ディーラーはゲームが始まると

球を時計回りにシュート(投げる)しますが、

その前に、彼らは数字の書かれた盤面「ホイール」を

反時計回りに回転させます。

 

このホイールの回転速度が

もしゆっくりであれば「チャンスあり」と判断。

 

球が失速して縦ピンに当たるまでに

数字の書かれたホイールが何回転ほどするかを何ゲームか見て、

ディーラーが投じた球はどの縦ピンにぶつかり

どのエリアに落ちそうかをだいたい予想できれば、

当たりそうな数字にチップを置くことができるからです。

 

上手いディーラーであれば、そうしたこちらの動きを見て

狙いを絞らせないように球をシュートするようになるので

ちょっとした駆け引き的ことが発生して楽しくなるし、

下手なディーラーであれば、同じ縦ピンにばかり当ててしまうので

こちらは高い確率で落下エリアを予測することができます。

(こうなると、おいしい)

 

なので、もしディーラーが

数字の書かれたホイールを高速で回転させていたら、

もはや予測はできず完全に運任せとなるので、ノーチャンス。

「あ、このお店はそういう方針なんだね」と、

ルーレットからは撤退します。

 

長々と書きましたが、これらは別に必勝法でもなく、

たまに出現するチャンスを仮に見つけられたとところで

チップの置き方にもそれなりの経験や技術がいるし

結局は運の要素もあるので、大勝ちできることはなかなかありません。

 

本当に大勝ちするにはイカサマしかないのですが、

これは悪い客がやるというより

悪いディーラーが客に扮した悪い仲間と組んで行うことが多く、

ハウス(胴元)側もそれを知っているので、

天井にあるカメラは客だけではなく

むしろディーラーの不審な動きを見張っていると聞いたことがあります。

 

バイト先で見聞きしたイカサマの手口は

本当にバリエーション豊かで、ハウス側が対策をしても

悪い奴らはすぐに次のイカサマを考案するので常にイタチごっこでした。

 

悪いことなのですが、

それに真剣に取り組んでいる人たちの攻防は

じつに人間くさく、面白いやり取りだなあと

ちょっと感心すらしていたのを覚えています。

 

僕が、ディーラーに限らず「人との対戦感」を

味わえるゲームが好きなのは、

そんな人間くささに魅かれているところもきっとあるのでしょう。

(だから麻雀も大好きです)

 

 

今回のカンヌライオンズでも、

3月にタイのパタヤで開かれたアドフェストでも、

「AIか、HI(ヒューマン・インテリジェンス)か」

的なテーマが、セミナー登壇者や審査員から語られていました。

AIを使っただけの企画は評価しないぞ、と。

 

各国から集まったいろいろな作品や事例を見てきましたが、

アナログな企画でも、最新テクノロジーを使いつくした企画でも、

その根っこに欲望や本音といった

チャーミングな「人間くささ」のあるアイデアに

僕は魅力も嫉妬も感じてきたなと、今あらためて思います。

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