シチリアの女は立ちかたが違う
「シチリアの女は立ちかたが違う」
この言葉は映画監督のリリアーナ・カヴァーニの言葉だそうです。
稀代のメゾソプラノといわれたワルトラウト・マイヤーが
シチリアを舞台にしたオペラのヒロインを歌うことになったとき
「ドイツ女とシチリア女では立ちかたが違う」と教わったということで、
これはマイヤー自身が語った言葉として伝わっています。
「シチリアの女は立ちかたが違う」
雰囲気としてはわかるんだけど、どう違うんだろう???
私はこの言葉に取り憑かれてしばらく調べまくったことがあります。
マイヤーが出演したシチリアが舞台のオペラというのは「カヴァレリア・ルスティカーナ」です。
私がyoutubeで見てこれは凄いと思ったのは1996年にイタリアで上演されたものでした。
とにかくヒロインのマイヤーが凄かった、うまかった、本気だった。
このオペラは1時間ちょっとの短編で、登場人物もこのくらい。
*捨てられた女
*捨てた男
*その男の元恋人
*元恋人の夫
シチリアの小さな村で、女を捨てた男は人妻になった元恋人とヨリを戻しています。
捨てられた女は、この演出では吐き気を堪える仕草があるので妊娠している設定のよう。
いまと違ってシングルマザーになろうものなら村八分。
いや、村に居られなくなるかもしれない。
女は孤児で、庇ってくれる家族もいません。
当然ながら、女はなんとか男を取り戻したいと思っています。
すがりつく女、突き放す男。
またすがりつく女、突き放す男。
そこへノーテンキな歌を歌いながら男の元恋人があらわれたりするので、
女はますます逆上してすがりつく。
男は突き放す。
私のアドバイスをきいてもらえるなら、「妊娠したのよ」と言えばどうですかね?
女は「私の話を聞いて」としか言いません。
まあ、路上で言えるような話じゃないかもしれませんが、何か焦ったい。
こうして突き放されまくった女は絶望して、ついに元恋人の夫に
「あんたの嫁さんと私の男が浮気してるのよ」と告げ口をします。
ここはシチリア、あっという間に決闘シーン。
女を捨てた男は元恋人の夫に殺され、ジ・エンド。
たったこれだけのオペラですが、圧巻は、すがりつく&突き放すのシーンで
ワルトラウト・マイヤーの命がけのすがりつきかたがハンパなく凄かったです。
男と女のすったもんだだけのオペラなのに、音楽も甘く美しく…..
ん??? しかし…
「シチリアの女は立ちかたが違う」はどうなったんだ?
「立ちかた」は単に立っているポーズのことではなかったのか?
そこんとこが解決されていないじゃないの?
いまのシチリアはマフィアに女性が進出などという噂も聞こえるくらいですが、
このオペラの時代だと簡単に言ってしまえば男尊女卑、女は服従を強いられていたようです。
でも、そのかわり女は男のやることを察知し、賢く強く立ちまわっていたのでしょう。
1991年頃のシチリアで、こんな事件があったそうです。
兄を殺された16歳の少女が法廷で証言台に立とうとしました。
父親はマフィアの一員で、6年前に殺されていました。
少女の母親は少女が証言することに猛反対。
すでに家を出ている少女に対してあらゆる妨害をします。
やがて少女がもっとも信頼していた検事が殺害され、ついに少女も自殺。
そのときの遺書が壮絶です。
「母はいかなる理由があろうとも私の葬儀に来てはならない。死後の私を見てはならない」
ところが母も母です。娘の墓を打ち砕き、娘の遺体を一族(マフィア)の墓地に埋葬し直します。
こうして母は死んだ娘をも「沈黙の掟」に従わせたのでしょうか。
それにしても、親娘ともども何という意志の強さ。
このエピソードを知ると「シチリアの女は立ちかたが違う」に、なるほどなと思うのです。
カヴァレリア・ルスティカーナの動画 ↓
(すがりつくシーンは37分30秒あたりから)
Turiddu(捨てた男): JOSÉ CURA
Santuzza(捨てられた女): Waltraud Meier
Alfio(元恋人の夫): Paolo Gavanelli
Lola(男の元恋人): Anna Maria Di Micco
Lucia(男の母): Tiziana Tramonti
Conducted by Riccardo Muti
Directed by Liliana Cavani
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