リレーコラムについて

ブーブー!ブーイングを怖がるな!

中山佐知子

上の写真はバイロイトでブーイングを浴びている演出チームです。
挨拶でお辞儀をしているのが「ごめんなさい」にも見えますね。

幕が下りるのを待っていたかのような大ブーイング。
たまにこういうシーンに遭遇します。
私はあくまで無料動画によるオペラ鑑賞ですから、
そのオペラをアップしてくれた人が
エンドロールまできっちり入れてくれていれば、
幕が降りたとき→大ブーイング。
歌手のカーテンコール→拍手喝采。
指揮者→拍手。
演出家→大ブーイング。
こんな面白い光景も見られます。
ことにバイロイト音楽祭ではそれが顕著です。

バイロイト音楽祭はワーグナーの作品のみ上演されますが、
もともと7作品しかないオペラを取っ替え引っ替えですから
オーソドックスな演出では演出家が行き詰まるのは当たり前…なのですが、
だからといってこれはどうなの?という演出をたまに見かけます。
例えば2007年、ワーグナーの曾孫カタリナ・ワーグナーさんが演出した
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」です。

余分なものがやたらと多い演出でした。
歴代音楽家の巨大な仮面をつけた人たちが
下着姿でふざけまわるシーンがありましたけども、
仮面そのものが見苦しい部分を強調しているので、
見苦しいベートーベンの見苦しいパンツ姿をなぜ見にゃならんのだ!的な怒りは
私もたいへんよく理解できました。
権威の否定? ということかもしれないですが、どうなの、これ?

さて、受け売りですがバイロイトのブーイング史をちょっとメモしておきます。
1972年「タンホイザー」:ナチスを連想させる軍服の衣装で炎上。
1976年「ニーベルングの指輪」:初演の年は大ブーイング。最終年は大喝采。
1978年「さまよえるオランダ人」:観客は拒否反応を起こしたが、演出家は超有名になった。
1988年「ニーベルングの指輪」:レーザー光線を使った近未来演出。後に名作と呼ばれた。
2007年「ニュールンベルクのマイスタージンガー」:前出
2010年「ローエングリン」:歌とオケは素晴らしいのに、なぜこの演出?
2013年「ニーベルングの指輪」:空前絶後の大ブーイング。私も二度と見たくない。
2019年「タンホイザー」:初年度はブーイングでしたが、そのわりにチケットが売れてます。
                ↓

ざっと書きましたが、実はまだまだあります。
バイロイトの歴史はブーイングの歴史です。
2013年に大ブーイングだった「ニーベルングの指環」は
演出を変える予定がコロナ禍で延びて、2022年にやっと新しくなりました。
しかし、新作がこれまた世界的ニュースになるほどの大ブーイング。
この演目はことにブーイングの連続で、
いま「ニーベルングの指輪」で名作と呼ばれているのは1976年、シェロー演出のものです。
しかもこの名作も初年度は大ブーイング。
客同士が喧嘩をして警察が出動したり、バイロイトの責任者に非難が集中したり、
単なるブーイングだけではない騒ぎになったそうです。
お客も本気で見てたんだなあ。
youtubeに動画が落ちているので私も少し見ましたが、
実にクラッシックでオーソドックスに見えます。ブーイングの理由がわからない…
なるほど、半世紀過ぎると先鋭は古典になるんだな。
ブーイングってもしかして喜んでいいのかも(真のクソ演出はのぞく)。
このオペラはペーター・ホフマンのジークムントがとてもよかったです。
ああ、この話を始めると長くなるからやめよう。
興味のあるかたは下のyoutubeをどうぞ。

さて、かつて大ブーイングだった「ニーベルングの指環」がいまでは名作です。
しかも半世紀近くも名作と呼ばれ続けています。
そうか、単なるクソ演出ではなかったのですね。
演出のパトリック・シェローは毎年少しづつ演出を改善していったそうです。
ブーイングだってお客さんの反応ですから、無視されるよりいいですが、
ブーイングに立ち向かってついに逆転した演出家はえらいです。
ブーイングを怖がってはいけないんだなあとつくづく思います。

そういえばyoutubeに面白い動画がありました。
バイロイトのブーイングを集めた動画です。
「バイロイトはブーイングを喰らってなんぼ」というオペラファンがいましたが、
確かにそうかも。

バイロイトブーイング集 ↓

⚫︎ 来週は櫻井暸くんにお願いしています。よく食べ、よく書く元気な男子です。

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