リレーコラムについて

リラックスを最強の武器に変える技術

廣瀬大

自分で勝手に「一輪車理論」と名づけている考え方がある。

一輪車は走り続けなければ倒れてしまう。

二輪車も同様。三輪車になってようやく止まることができ、

四輪車だと止まることもできるし、屋根もつく。

人生を駆動させる車輪も同様で、

一輪車よりは二輪車、三輪車より四輪車の方が

安定しているという理論である。

 

まあ、勝手になんの根拠もなく自分でそう思っているだけだし、

この考え方に正当性があるのかどうかも怪しいけれど、

いくつかの車輪を人生の中で持ちたいと常々考えてきた。

 

そんな中、僕の人生の大切な車輪の中に格闘技と武術がある。

元々、大学生の頃、ブラジリアン柔術という格闘技をやっていたのだけれど、

椎間板ヘルニアに苦しみ、かつ、社会人になってからの忙しい日々により、

なかなか練習に行けなくなっていた。

久しぶりに道場に行ったある日、

ロープを腕の力だけで昇り降りするトレーニングがあって、

みんな10回、20回やるのだけれど、

なんと僕は1回しかできなかった。いや、1回も怪しいところだった。

このやり方では緩やかに確実にただ衰えていくだけだ。

完全についていけなくなっている。なにか対策を取らなくては。

これまでの概念を覆すような技術やトレーニングがないかと色々調べていたら、

ある朝突然、システマという言葉が頭に降りてきた(←これ本当)。

 

システマはロシアの武術で、ひとことで言うならば

「リラックスを最強の武器に変える技術」だ。

初めて稽古に行ってみて、すぐに思った。

これは格闘技だけでなく、仕事や日常にも使える。

もしシステマを学んでいなければ、

僕は今日までこんな風に働いてこれなかったのではないか。

そう思うときが多々ある。

 

システマの稽古の中で、学んだことを参照までにいくつか挙げておく。

 

「70%の力で戦う」

古くから伝わる武術であるシステマの目的は、

戦場をサバイブすること。生きて帰ってくること。

いざという不測のときのために、

30%の力を残して戦わなくてはならない。

100%、200%の力を出し切って戦うという発想は、

ルールや時間、対戦相手の人数が決まっているスポーツ的な発想なのだ。

僕たちであれば企画の持ち寄りの際はルールも時間も基本、

決まっているのでスポーツ的な発想で200%出せばいい。

でも、長い目で一つの作業を見れば、状況が変わったり、

ルールが変わったりすることは多々ある。

そういう時のために、そして、ここぞというときに200%の力を出し切るためにも、

70%で戦っておく。

この考え方は僕の人生観を大きく変えた気がする。

 

「相手の攻撃に感情的になって反撃するのは、

相手にコントロールされているのと同じ」

これは夫婦の関係にとてもよく効く。

僕の妻は大変に美しく優しく、

知的でチャーミングでユーモアに溢れた

とても素敵な女性なのだけれども、

そんな人とでも一緒に毎日暮らしていると、

お互いカチンとくることがある。

相手になにか言われて、カチンときて、

感情的になって言い返す。

それでは相手にコントロールされているも同じ。

まず呼吸をし、身体をリラックスさせ、

適切な行動を選択する(でも、やっぱりケンカになることが多いけどね)。

 

さまざまなビジネス書や自己啓発系の本にも、

同じようなことがおそらく書いているだろう。

でも、それがなかなかできるようにならないのは

頭で理解しているだけだからだと思う。

頭で理解しても身体がそのように反応できないから。

まず、身体トレーニングとして、

緊張状態からどうリラックスして、

そのリラックスを武器に変えていくのかを学ぶ

システマは仕事にも日常生活にも効く。

この武術を学ぶことで、仕事で身体を壊す人が減るのではないかと本気で思っている。

 

最近では、仕事も家庭もシステマの稽古の場だと思うようになってきた。

僕の密かな目標は定年後(この概念がいつまであるのか、かなり怪しいけど)に、

総合格闘家デビューすることである。

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