リレーコラムについて

世界の授乳事情

石橋枝里子

昨年の7月、8月。
0歳8ヶ月の息子を連れて
欧州を旅していました。

ちょうど育休中。
彼が、夜まとまって寝られるようになりはじめ、
産後ダメージが回復してきた頃。
向こうに住んでいる親友に、
旅行は子が歩き回る前のほうが楽と聞いたのをきっかけに、
仕事が閑散期の夫もリモートでなんとかするということになり、
思いきって行ってみることに。

最初の街は、ベルリン。

地下鉄に乗ろうと階段を降りていたら、
向かいからやってくる、スラッとしたママ。
乳幼児を抱き抱えながら、
えっ!おっぱいをあげているではないか。

おっぱいをあげながら、
駅の階段をガシガシ上る人を見たのは初めてでした。
胸元に小さなハンカチをかぶせていたけれど、
恥ずかしがることもなく堂々と。

電車の中にも、子どもが泣き出すと、
突然授乳を始める女性がいました。
そして、ベビーカーも自転車も犬も
クラブに向かうであろう、全身網タイツでいろんなところが
透け透けの人も乗っています。
そして、それを当たり前に受け止める人々。
心の奥底はわかりませんが、
ふるまいは、いたって平然としています。

そう、世間体みたいな圧が全くないのです。
移民率も高いベルリンなので、人種も多種多様。
むしろ、ここに来ることで、
日本には、他人への強めの視線や同調圧力が
確かにあるということに改めて気付きました。

人口密度がぎちぎちの東京では、
物理的に仕方のない部分もありますが、
子との生活で「すいません」を言う回数が
日に日に増えていたのは事実。

あの肩身の狭さからの解放感がありました。

街を歩けば、公園にも、カフェにも、
青空おっぱい中の女性がちらほら。
授乳ケープみたいなもので覆うことはせず、
タンクトップなど授乳しやすい服を着ています。

こういう環境が続くと、
だんだん自分もまあいいかとなってくるもので。

誰も気にしていないし、
そもそも人が密集するほどいない。
移動中のバスや公園で、
Tシャツの中に子どもを入れたり、
カーディガンでなんとなく隠しながら、
がんがん授乳するようになっていました。
慣れてしまえば、かなり楽。

もちろん日本の駅や商業施設にある、
授乳室の安心感には叶わないので、
どちらがいいという話ではありません。
ただ、赤子は待ってはくれません。
いろんな選択肢があるのはいいなと思いました。

この感覚に慣れたころ、
パリに着くとどうやら様子が違うのです。
あれ、ベルリンみたいな
青空おっぱい仲間が見当たらない。

たまたまかなと、
公園のベンチで母乳を上げていしていると、
となりのおばあちゃんにやたら褒められます。
今、みんなミルクだからと。
どうやら、産後すぐからミルクを選択する人が多い。
母乳併用を選択しても、その期間が3ヶ月程度と短いんだとか。

その背景には、ママたちの仕事復帰が早いこと。
(育休の権利はもちろんあるが、
キャリアをしっかり継続したいし、
産後10週の産休が終われば無収入なので、
3ヶ月程度での復帰が多いらしい。
うーん、これはしんどいですね)

あと、アムールの国だから。
形が崩れたり、乳臭いおっぱいになるのは嫌。
母親になっても、女は絶対に捨てない。
という心意気があるようです。流石フランス人。

その後、マラガからスペインに入ると、どうでしょう。
青空おっぱいしている人、たくさんいました。
ぼろんぼろん、出しています。
ヌーディストビーチも多いですしね、
まわりも全く気にしておりません。
見ないのがマナーという感じ。

ところが、ポルトガルでは、
おや、またあまり見なくなりました。
これは私の憶測ですが、カトリック教徒が9割越え。
敬虔な信者が多く、
保守的な傾向が関係していそうな気がします。

というわけで、
たったN1の肌感で言えば、
ヨーロッパだけでも様々。

おっぱいと同時に必要だった、
離乳食の食材や摂取順も様々でした。
例えば、日本ではお粥からはじまりますが、
初期から牛肉を薦めている国もあります。
それでも、どの国の子供たちも
すくすくむちむち育ちます。

ベースの知識は必要だけど、
育児本的なマニュアルが正解なわけじゃない。
それは、それぞれの土地や時代の文化の平均値に過ぎない。
という結論に至り、ここから私の育児は
どんどんゆるくなっていくのでした。

感覚の狂った私は、帰国後の帰路の駅で
ベルリンスタイルの授乳をしようとし、
夫に嗜められます。
まあ、そうですよね。
日本だと猥褻罪かもしれない。

日本に来るツーリストの中にも、
思わぬ視線におののいているママが
いないかちょっと心配です。

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