リレーコラムについて

友だちを食べる、というソリューション

中川英明

猛吹雪の洞窟。

栄養不足で衰弱する三蔵のために、

「仲間の誰かを食べよう」という流れになった孫悟空たち。

そこで命がけの協議がもたれます。

 

まずは、やっぱり食べるならブタだろう、という流れで議論は進みます。

「いつもブタがいちばん役立たずだし」とか、

議題とは関係ない悪口まで言って、猪八戒を追いつめる孫悟空。

しかし、猪八戒が大ジタバタして、(そりゃしますね)

けっきょく最後は公平に、クジ引きで決めることになります。

ルールはかんたん。悟空が自らの髪の毛を3本ひっこ抜き、言います。

「この毛のうち1本だけ先が丸まっているから、それを引いたやつを食べよう」と。

そして、握りしめた悟空の手から、猪八戒が思い切って毛を1本引くと、

見事にそれが一発大アタリ!

猪八戒はがくぜんとし、残りの2人は大喜びします。

 

しかし信じられないことですが、

実は、それはすべて悟空のワナでした。

猪八戒は気づきませんでしたが、残りの毛2本も先が丸まっていたのです。

こ、コスい! かつて、こんなコスい真似をするドラマの主人公がいたでしょうか?

ともあれワナにはまり、食べられることが決まった猪八戒。

やけを起こして、「さあ殺せ~!」と、わめき散らしますが、

沙悟浄が「アホ、そうかんたんに仲間を殺せるか」と、たしなめます。

そして、何かフォローするのかなと思いきや、

「自分でクビを吊るとか、壁にアタマぶつけるとかしてやな…」

と、遠慮気味に、しかしチョー厚かましい要求をしてきます。

友人のあまりの言葉に、猪八戒はがっくり肩を落とし、

「痛いのはイヤだから、外に行って凍死してくる」と、言います。

そこへ悟空が決定的なセリフを投げかけます。

この一言、スゴイです。

「…念のため、逃げないよう、縄だけ付けさせてもらうわ」

ぶははははは。リアルといえばあまりにリアルな、

しかし、なぜそこまで?と疑いたくなる念の入りようです。

これまで何度も生死をともにしてきた仲間なのに、

3人の、この圧倒的な信頼関係のなさにもシビれます。

そして、腰にロープを付けられた猪八戒は、洞窟を出て、吹雪の中に姿を消します。

2人はまんじりともせず待っていますが、そこで突然、悟空が後悔しはじめます。

「オレたちは間違っていた。あんな良いヤツ殺すなんて」と。

いま気づく?という感じですが。

 

しかし、ロープを引き寄せると、その先端には何も付いていません。

「アイツ、逃げやがった!」と、数秒前の後悔はどこへやら、

2人は怒り心頭になって洞窟を飛び出し、周辺を探します。

すると、そこには、雪に埋まった1頭のイノシシの死体がありました。

それを猪八戒だと思った2人は、すぐに洞窟内に持って帰り、

あっという間に料理してペロリと平らげます。

そして、眠っていた三蔵法師も揺り起こし、

「おっしょさん(お師匠さん)!食べてください!」と肉を薦め、

三蔵も疑問を持つこともなく食べてしまいます。

 

…それにしても、

「猪八戒がなぜイノシシの死体に?」という疑問が浮かびますよね。

事実、沙悟浄がそれを口にします。

しかし、悟空の冴えたコメントが、その疑問を吹き飛ばします。

「アイツ、俺たちが食べやすいように、姿を変えて死んだんだ」と。

そして付けくわえます。「アイツ、気が利いてるな」と。はははは。

 

しかし、ホンモノの猪八戒は、実は怖気づいて縄をほどいて逃げていました。

2人が見つけたのは、たまたま本当に凍死したイノシシだったのです。

しかし、そうとは知らない一行。

そして三蔵はやっと、猪八戒がいないことに気づきます。

「八戒はどこです…?」

不審げにたずねる三蔵。そして、悟空が言いにくそうに答えます。

「…いま、おっしょさんの、腹の中です」と。

はははははは。本当にこの辺のセリフはおかしい。何度思い返しても笑えます。

脚本家のジェームス三木先生の筆が冴えに冴えています。

そして、信じられないことに、事態はこの後、さらにおかしなことになっていきます。

 

(明日へつづく)

 

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