名前はなんでもよかろうもん
今、横浜みなとみらいのアパホテルのシングルルーム、
ひとりのコピーライターがPCに向かって
コラムの原稿を書いている。
今から6時間前、そのコピーライターは横浜にぎわい座で
落語を聴いていた。三遊亭歌武蔵・柳家喬太郎・三遊亭兼好(敬称略)の
ユニットで定期的に行われている人気の「落語教育委員会」。
平日の昼なのに客席はいっぱいである。この教育委員会というネーミングは
1990年代に流行ったテレビのバラエティ番組「平成教育委員会」を下敷きにした
と思われる。もうずいぶん長く続いている落語会だが、平成時代は単なるパロディに思えた
名前が令和の今は伝統というか格みたいなものを感じられるようになってきた。
名前には理屈では説明できないフシギなチカラがある。
今から2週間前、令和5年5月5日、そのコピーライターは浅草公会堂で
落語を聴いていた。立川談春浅草の会。今回はサブタイトルに、
「立川こはる改め立川小春志真打昇進予行演習」とある。立川こはる(敬称略)は
立川談春門下で初めての真打昇進である。まさにその日は立川小春志襲名の初日。
これからこはるは小春志師匠と呼ばれる。小春志の「春」は師匠の名前の一文字を
小春志の「志」は大師匠の談志から一文字をもらった名前だ。
もしもコピーライターの世界に襲名の制度があったらどうなのだろう。
そのコピーライターは自分の師匠の顔を思い浮かべながら、名前を付けてもらえるなら
「貴」の字がいいかな?いや、やはり「志」の字のほうがかっこいいかな!
と妄想にふけニヤニヤしてしまった。
今から半年前、そのコピーライターは自分の新しく作る事務所(会社)の
名前をどうしようか悩んでいた。ふだんネーミングの仕事は嫌いではないし
そこそこ得意にしている分野でわりとすぐに思いつく。それはおそらく気持ちのどこかで
所詮他人の名前だし、なんでもよかろうもん(いいだろう)と思っているから
かもしれない。しかしこれが自分のこととなると急にわからなくなる。
いっそ、誰かつけてくれないだろうか。
ふと、そのコピーライターは若いころ師匠に育ててもらった会社の名前を心で反復する。
仲畑広告制作所。大好きな名前だ。似た名前にしたいと思った。
門田コピー工場。博多の田舎者がつけるとどうしても泥臭くなってしまう。
それでも何とか長く続きますように、とそのコピーライターは切に願った。
今から39年前、昭和59年6月、当時21歳の学生だったそのコピーライターは
週刊誌(週刊文春)の人気連載企画「萬流コピー塾」にはまり糸井重里家元から
「重」の一文字をいただき「門田重陽」という萬名をもらった。21歳の学生は
有頂天になり、きっとコピーライターになろうと決心した。
今、横浜みなとみらいのアパホテルのシングルルーム、
ひとりのコピーライターがリレーコラムの最終日を書き終えた。
来週のコラムは門田陽と名前の字面が妙に似ていて、とても他人とは思えない
関陽子さんにお願いすると快く引き受けてもらえた。ありがとう。
※博多弁タイトルのワンポイント講座⑤
よかろうもん・・・標準語だと「いいよね」とか「いいだろ」が近いのかな。
わりと半強制的に相手の同意を求め、「焼酎おかわりもう一杯飲んでも
よかろうもん!」みたいに使われます。
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