リレーコラムについて

子どもたちの浪漫飛行

熊谷卓彦

電車が好きな人ならわかってくれると思いますが、
乗り物の車輪は多ければ多いほど安心できるものです。

車は4輪。信用に足りません。
バイクや自転車や一輪車。論外です。
飛行機は、空港を走っているうちは快適(B777が14輪)ですが
空を飛んだりしたとたんに車輪をたたんだ恐ろしい乗り物になります。

でも子どもたちは平気なようで
自分専用のモニターで動画を見られるのを喜んでいます。

頼もしい友人たちが駐在している間にと仕事や費用からは目をそらして
親族2世帯海外旅行をいくつか強行してきました。

遠足に1日行っただけで子どもたちは成長します。
子どもの旅の記憶は忘れられると言われますが
振り返れば大人の私など人生のほとんどを忘れてしまっています。
経験のほとんどは記憶されずに血肉になっていく…と信じて。

喧騒はベトナムで知りました。
車道は車と1〜3人乗りのバイクでいっぱい、
響き渡るエンジン音の中、クラクションがひっきりなしに鳴らされます。
静寂は一瞬もありません。
タクシーに乗っていてもバイクとの距離が近く車内で子どもたちの悲鳴があがります。
運転ルールが独特なため駐在員でも運転は会社に禁止されているそうです。

ホーチミンは高層ビルも並ぶ近代的な都市ですが
歩道は舗装はされていてもボコボコで油断はできず
アドレナリン無しでは歩けません。
夜になると湿気もあってゴッサム・シティの様相に。

夜の喧騒の見慣れぬ街を転ばぬよう轢かれぬよう
30分ほど歩いただけでしたが
小学低学年生にはちょっとした冒険だったようで
歩いた自分を自賛しておりました。

この活気の中で食べる果物やビールやスパイスの効いたごはんはとても美味しく、
生きる力を刺激されました。

異文化のトイレはやはり印象に残ります。
紙は流さず横のゴミ箱にいれなければなりません。
洗ってもいない、
やっぱり、すこ〜し付いてるようですよ、
ではすまない紙を。

人の紙が見えるのは違和感がありますし、
自分の紙を残すのも違和感があります。
知らない人ならまだしも
一緒にいる親族や友人と同じトイレを使うとなると紙の捨て方にも気を使います。
とくにひとんちでうんちはしにくいことでしょう。

これはいい経験になりまして、
日本で急な寒波でトイレが詰まりがちになったときに
ベトナム方式ね! とすぐに対応できました。
旅した甲斐があったというものです。

トイレで意外な発見があったのはイギリスでした。
紙は厚く、ミシン目がしっかり入っています。
くるくると巻くのではなく、たたんで使う紳士流。
無駄なく使えると大人の勉強になりました。
固くて値段も高くて日本の紙が恋しいと
現地の友人は言っておりましたが。

紙の重みを教えてくれたのは図書館でした。
大英図書館の博物館には
グーテンベルクが印刷した聖書や
モーツァルトの楽譜や
オスカー・ワイルドの原稿や
レノンやポールの直筆歌詞などが一堂に。

一言一句、魂をこめて記した1ページも、
天才がしたためた閃きも、
紙は平等に残してくれます(コピー年鑑もそうですね)。

大英博物館も大英図書館も入場は無料で誰もが気軽に足を運べます。
ほかの多くの博物館や美術館も公園のように開かれています。

遠足や社会科見学で、子どもたちは当たり前のように
ミイラやモアイやオフィーリアやワイルドなどと
接しながら大人になれるのでしょうか。
文化を知る大人を育てることが国の責務にして自負なのでしょう。
うらやましい…。

「イギリスはただなんだよー。」「ふうん。」の
やりとりだけでも覚えておいてもらって
いつか日本のことを考える種にしてほしい。

ホーチミンが爆発した活気に包まれていたとすれば
ロンドンは整然とした活気に包まれていて
歩道は平ら、車もバイクもおとなしく、
住居は街全体のデザインに組み込まれ、
人々はお互いに気を使い助けあい微笑みあい、
快適な社会を作ることに意識的であるように感じました。
友人の存在もあり、とても居心地のいい街でした。

街中や郊外に、広い公園や植物園が整えられているのも
生活を快適にしてくれる自然を大切にしているからでしょう。
友人宅には巨大なクワガタムシがたくさん飛んでくるそうです。

植物園や宮殿ではオリジナルのジンがつくられ、
植物のぬいぐるみも充実していました。
おばあちゃんが自分のためにぶどうのぬいぐるみを買ったことは
孫むすめとして忘れないことでしょう。

いつか親をおいてリュックひとつで外国に行けるようになるといいなと思いつつ
そんな時がくるのも少しさみしく…。

そんなことを考えていたら飛行機がよいものに思えてきました。
車輪がないとか言ってる場合じゃない。
青い、いい空にむかってまた飛べますように。

一週間、薄口、無駄口のコラムにお付き合いいただきましてありがとうございました。
沢辺さんのおかげで(まさにハマースミス・アポロを通りすぎているときに着信をいただきました)、
楽しい一週間になりました。

バトンは、花王の池田高明さんにお願いしました。
TCC会員にもインハウスのコピーライターさん、けっこういらっしゃるのです。
句会の同門でもあります。
父仲間でもあります。
池田さん、どうぞよろしくお願いいたします。

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