思ってたんと違う④
30歳になってからは、
1人で仕事をするスタイルが増えていった。
名刺はCDでないのに、なんちゃってCDとして
自分で企画して、企画書を書いて
営業さんと一緒にプレゼンしにいって、
必要であれば、他のスタッフにも参加してもらった。
そんな折、
SUBARUのディーラー試乗グッズ「ぶつからないミニカー」の
Webムービーの話が僕にきた。
時間もなく、できれば1週間後くらいに撮影したい。
また、予算も非常に限られていた。
聞くと、別のクリエイティブチームが提案したけれど、
採用されなかったようで、駆け込み寺のように
僕のところに営業さんが話を持ってきたというわけだ。
僕としては、頼ってもらうこと自体が嬉しかったので、
ふたつ返事で引き受け、1人で企画をやることにした。
時間も予算も限られているが、ちゃんとしたものは作りたいと思って、
制作会社さんの同じ歳くらいの若手プロデューサーの方にお願いして、
監督のアサイン含めて、無理を聞いてもらった。
企画して、クライアントにも通って、
すぐ撮影して、編集して、ローンチとなった。
できた映像が、こちら。
https://www.youtube.com/watch?v=6_5LiCGQdKU
割と評判が良く、第2弾も制作することがすぐに決定した。
ただ僕としてはWebムービーなので、
もっとたくさんの人に見てもらわないと、
その役割を果たしてないと思い、
第2弾は「驚き」を伴う企画にして、
より多くの人に見てもらおうと決めた。
※上記リンクの映像は当時は100万回再生もいってなかった
決まった企画は、
かなり実験的なもので、理屈上は成立しているけど、
実際に制作するとなると、どうやって実現するか、
監督やプロデューサー含めて、みんなで連日連夜、話し合った。
前回よりは時間はあったが、予算は同じく限られていたので、
アナログ撮影でやり切ろうという話になった。
撮影も編集もMAもとても困難を極めた。
できた映像が、こちら。
https://www.youtube.com/watch?v=QQg2oTXcxZg
苦労の甲斐もあり、ローンチ時期が年末で世の中的に冬休みに入ったことも後押しして、
国内外で反響を呼び、話題となった。好意的なコメントも数多く寄せられた。
大きな話題となったので、第3弾の制作も決定した。
僕としては、次はSUBARUが見る夢を描く企画と決めて、
企画してプレゼンして、制作していった。
これもまた実現するのに非常に困難を極めた撮影だったが、
とても優秀なスタッフたちのおかげで、なんとか良いものが撮影できた。
編集段階で、ムービーのラストにコピーを入れようとなった。
これは僕の判断というよりも、監督がコピーを入れた方が
よりグッとくるからとアドバイスをくれたのだ。
そこで僕はコピーを書いた。
「ぶつからない世界へ。」というコピー。
安全技術を持つSUBARUが抱く理想の未来に向かっていくコピーで
締めたいと思ったからだ。
できた映像が、こちら。
https://www.youtube.com/watch?v=m75HmwoXjxk
これらのムービーシリーズは、国内外の広告賞を数多く受賞し、僕の代表作となった。
ちなみにTCC新人賞は、1次審査通過止まり。今考えれば、納得である。
これによって、社内でも以前より注目されるようになり、
色々と声をかけていただく機会も増えていった。
そして、名刺にもCDの肩書きが入った。
33歳の時である。
色々と嬉しい反面、僕はある課題に直面していた。
それは「コピー」だ。
自分で企画をして、コピーも入れようと書くものの、
方向性は正しいのかもしれないが、どうも何かしっくりこない。
自分で企画したのに、コピーが締まらないので、
企画もボヤッとするし、よくも見えない。
もっと言えば、キャンペーンを展開するのに、
真ん中にドン!とコピーを置きたいのに、
ズバッ!と決まるコピーが書けない。
もちろん誰かコピーライターの方に、
書いてもらえればいいのかもしれない。
ただ、当時、自分でコピーが書けないと、
今後、自分は使いものにならなくなるぞという、
悪寒に似た感覚を、直感的に感じていた。
これは半ば強制的に、
コピーの修行をする必要があると
密かにサイレンが鳴り始めていた。
そんな時に、
ある外資エージェンシーに行く話が出てきた。
Wieden+Kennedy Tokyoだ。
ナイキなど名作を作っているアメリカのエージェンシー。
僕は以前から、この会社が作る広告が好きだった。
クラフト力もさながら、
強いメッセージ性のある広告を数多く作っていた。
そんな中でいちばん好きな広告がこちら。
P&G The Best Job
https://www.youtube.com/watch?v=BnBvlz8EaZ0
いつ見ても確実に泣ける広告で、泣きたい時はこのCMを見ている。
自分が親になったこともあり、子に対する母の愛情が沁みて仕方ない。
映像も素晴らしいのだが、ラストのコピーがまた素晴らしい。
The hardest job in the world,
is the best job in the world.
Thank you, Mom.
世界でいちばん大変な仕事は、
世界でいちばん素敵な仕事です。
ありがとう、お母さん。
この広告を見てから、もう完全に虜になってしまった。
そんなエージェンシーで働けるチャンスがある。
正直、自分の力を考えると、時期尚早な気もしたが、
コピーを鍛えること、強いメッセージを開発すること、
あのクラフト力を学ぶこと、英語でのコミュニケーション、
などなど、修行の場にはもってこいだと思い、
W+K東京でお世話になることに決めた。
まさか、自分が外資で、
しかもワイデンで働くことになるとは。
思ってたんと違う。
つづく。
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4日目は以上です。
30代前半は、仕事も会社も家族も変化していき、
人生が動いていった時期でした。
しかし、紆余曲折はまだ続きます。