リレーコラムについて

思ってたんと違う⑤

石山寛樹

Wieden+Kennedy Tokyoは、

何もかもが違っていた。

 

これが、カルチャーショックというものだろう。

 

NIKEのオレンジシューズBOXで作った

巨大なスピーカーがエントランスに置いてあり、

カンヌのゴールドライオンのトロフィーが

ドアストッパーとして使われているオフィス。

 

今はちょっと違うかもしれないが、

当時は、大人のおもちゃ箱みたいで、

いい意味で、ごちゃごちゃした雰囲気の室内だった。

 

で、みんな夕方くらいまでしか基本は働かない。

当然、土日も働かない。

 

夕方以降はオフィスの1階のカフェで

ビールを飲み始めることが多い。

なんなら、昼から飲むこともある。

 

それでも、生産性は落ちない。

むしろ、夕方までに集中して仕事をする。

 

特にポートランドオフィス(本社)から来ている

クリエイティブたちの仕事が恐ろしく早いこと。

僕の3,4倍くらいのスピードでやっていたと思う。

彼らは本社からのクリエイティブなんで、

鍛えられ方のレベルが違うとすぐにわかった。

 

クリエイティブチームは、

コピーライターとアートディレクターがタッグを組んで、

2人でディスカッションしながら、企画を作り上げていく。

CMだろうが、グラフィックだろうが、

SNS、デジタル、イベントであろうが、どんな企画でも2人で作る。

それをCDに見せて、ディレクションしてもらって、

ECDに見せて通ったら、プレゼンできるシステム。

 

ECDを通過しなければ、

プレゼン日程を後ろにズラすくらい、

このECDチェックインの通過は絶対条件だ。

 

僕はコピーライターとなり、

アートディレクターと組んで仕事をしていった。

 

これまで割と1人で企画を考えてきた僕は、

このシステムに最初は戸惑った。

 

互いに何にも企画を持ち寄らないで

雑談から企画を練り上げることも少なくない。

 

さらに、

そこに外国人のクリエイティブも参加して、

ハイブリッドしながらやっていくことも少なくない。

むしろ、多かったかもしれない。

 

これも慣れていくと、例えば、ランニングアプリの仕事で、

アートディレクターと一緒に川沿いをランニングしながら話し合った。

その後、一緒に銭湯にいき、ビールを飲んで、酔ったので、

「つづきは、明日か」という具合でやったりもしていた。

 

コミュニケーションは、基本は英語。

メールも打合せも、英語で進行することが多い。

英語ができなかった僕は、当然、苦労した。

 

ただ、日本人同士は日本語で会話するし、

日本語のコピーは英語に翻訳してもらう。

 

ここが、ポイント。

 

日本語のコピーは、

英語に翻訳してもらってCDやECDに確認してもらう。

日本語のコピーのニュアンスは英語に翻訳する時点で、

ほぼ死ぬと思っていい。

 

従って、

コピーの構造として面白いものでないと、

なかなか伝わりにくい。

日本語のいいニュアンスのコピーで勝負したくても、

ここでは通らないのだ。

コピーライターも、戦略的にならざるおえない。

 

それと、

「マニフェスト」

というものがある。

 

これは、プレゼンするときに、

キャンペーンの目的や指針を説明するボディコピー。

広告業界では、ステートメントと、

言われることの方が一般的かもしれない。

 

W+Kでは、

このマニフェストを

必ずと言っていいほど、プレゼン段階で

コピーライターが書く。

 

クライアントも含めて、

みんなが立ち戻れる場所であり、

キャンペーン全体を体現するもの。

 

これ、個人的にとてもいい作業だと思っている。

 

今回、ブランドとして、企業として、

何をやりたいのか、何を目指しているのかが

明確になり、関わる全員の視界をクリアにしてくれる。

 

このマニフェストがそのままポスターになることもあるし、

もう少し企画的に噛み砕いてからCMのナレーションになることもあるし、

プレゼンだけで、その役目を終えることもある。

 

そして、良いマニフェストは、

1行1行がキャッチコピーと同等の熱量と、

コピーとしても同じくらい磨かれていて、本当に美しい。

個人的には、言葉の芸術だと言っても、過言ではない。

 

キャッチコピーを書くだけでなく、

マニフェストをいかに書き上げられるかが、

コピーライターの技量の一つだと思う。

 

企画やコピーの力を磨いて高めていくためにも、

このマニフェストを書くということが

とても勉強になった。

 

そして、今も尚、

このマニフェストを書くことが

僕自身は、習慣化されている。

 

良い企画は、良いマニフェストが書けるし、

中途半端な企画は、マニフェストも中途半端になる。

 

一度、迷ったら、書くことをオススメする。

きっと、何かが見えてくる。

 

W+Kについては他にも色々書きたいことはあるけれど、

コピーにフォーカスして話を進めたい。

 

僕自身、コピーは当然、苦労した。

 

最初の頃は、

バナーのコピーをサクッと書いてよと言われて、

「げっ」と思うくらい、ビビっていた。

 

それでも、コピーの作業を続けていて、

教わったり、気がついたことがある。

 

コピーライターの皆さんにとっては、

別に当たり前だよってことも多いかもしれないが、

当時の僕としては、目から鱗だった。

 

まず、コピーは書くというよりも

見つけることに近い、と感じていること。

 

企画のアングルを見つけることに、

近いかもしれない。


できるだけ多くのアングルの見つけて、

様々な角度から掘っては検証していく。

 

もちろん、コピーのアングルを発見してから、

言葉自体を徹底的に磨いていかないといけないので、

それは物理的にコピーを書くことになる。

 

それと、いちばん大事なこと。

 

それは、書いたコピーの中から良いコピーを選ぶこと。

 

ここが実は、いちばん難しかった。(今でも難しい…)

 

ある時、

僕が書いたコピーの束をCD/コピーライターの先輩に見てもらって、

お互いにどれがいいと思うかに印をつけていった。

 

すると、互いの印があまり一致していなかった。

 

僕が選んだのは、今考えると、うまく書こうとしてるコピー。

先輩が選んだのは、何かを突破しているコピー。

 

コピーを書いた僕よりも、

コピーを書いてない先輩の方が、

明らかにコピーが目指す景色が見えていた。

 

愕然とした。

 

いいコピーを書けば、

必然的にそれを自分でも選べるもんだと思っていた。

 

そうではなく、

自分で書いた、いいかもしれないコピーを

見落としてしまう可能性があることを知り、

コピーの奥深さの一端を垣間見た気がした。

 

いいコピーライターは、

この選び抜く目が圧倒的に鍛えられていると思う。

 

それでも、これを体感したことはとても大きかった。

 

W+Kいる間は、TCCに出すという発想や余裕がなく、

ただひたすら、コピーを書いていたように思う。

(今考えると、当時出しとけよって思うけど)

 

その後、W+Kで4年間修行して、一度、ADKに戻り、

今はフリーランスとして活動している。

 

いいコピーをガンガン書いてます!とは言い難いけど、

コピーを書くことに臆してない自分がいる。

それは、個人的に大きな進歩だと思っている。

 

むしろ、W+Kを離れた後の方が、

コピー修行の成果を感じることが多い。

(ドラゴンボールの精神と時の部屋を出た後みたいな)

 

遠回りかもしれなかったけど、

決して、無駄じゃなかった。

 

そういう意味で、

今回、TCC新人賞をとったことは

僕自身、やはり大きかった。

 

コピーを書けなかった僕が、

誰かに認めてもらえるコピーを書けたのだから。

 

修行の成果が、少しだけ結実したのかもしれない。

 

他の新人賞受賞者たちよりも10年以上遅れて受賞しているのも、

なんか自分らしくて、悪くない気さえしている。

 

ここで、

僕の好きなNIKEのコピーをひとつご紹介したい。

 

屋外ビルボードのコピーで、今回受賞したTinderのコピーを書く時にも

これくらいのインパクトを残せたらと想像してたコピー。

YESTERDAY 

YOU SAID 

TOMORROW.

 

昨日、

キミは明日やると

言ったんだ。

 

簡単な4単語だけで構成され、

こんなにもシンプルなのに、

こんなにもエモーショナルに

力強く訴えかけてくるコピー。

 

この領域にいくには、

まだまだ修行の必要がありそうだけど。

 

コピーを書くことは、

 

思ってたんと違う。

 

苦しいけれど、おもしろい旅路である。

 

—–

 

以上、5日目の最終日でした。

 

僕のコラムなんて、誰も読んでないかもと

思っていたら、読んでます!ってメッセージを

いただいたりして、嬉しかったです。

 

お付き合いいただき、ありがとうございました。

 

さて、次のバトンは、同じくTCC新人賞を受賞した

ビーコンコミュニケーションズの中島優子さんです!

 

ハリボーのCMは、もう反則級におもしろいので、

とても楽しみです!

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