リレーコラムについて

生(なま)について

関陽子

駅までの道に小さなスナックがあって、その横の壁に

「ゴミ厳禁」「ゴミ捨て禁止」という手書きの紙が何枚か貼ってありました。

路地にある古い建物。植え込みに、空き缶とかペットボトルを放り投げていく人たちがいるのだと思います。

先日、そこに新しい貼り紙がガムテープで止めてありました。太いマジックペンで、

 

「ゴミすては法に触れる行為です

 もうやめましょう」

 

・・なんか、ちょっとグッときてしまったのです。

「やめてください」でも、ただ「やめましょう」でもなく「もうやめましょう」か・・。

「もう」のたった二文字に籠った怒りと、小さな諦めのようなもの。

ちょっと斜めになった手書きの生々しさ込みで、

標語で終わらない、血の通ったコピーだなと恐れ入りました。

(何も考えずにポイ捨てするような傍若無人さんに伝わるかはわかりませんが、効果が出ますように)

 

コピーライターとして、年々テクニックや文章を整える器用さは身につくけれど、

こういう何の作為もない、生の言葉の力にはかなわないなと、時々痛感します。

 

前に、雑誌の対談で歌人・穂村弘さんが、

ある高齢のおばあさまが作った短歌を素晴らしいと紹介していました。

 

「みんなが私の夫は死んだというけれど

 先生本当ですか?」

 

・・この生々しさもすごい。

勝手に引用して恐縮ですが、その流れで穂村さんは

「ある歌人が『自分が書いたんじゃないみたいに書けた時はうまくいった時』と言っていた。最後まで自分のコントロールの範囲でやると、本当には書けていない。『え、何、これ?』みたいな瞬間がないとダメなんだけど、どうすればその瞬間が訪れるのかわからない」

と語っていました。コピーライターの言葉にはコントロールが必要ですから、なかなかこのゾーンには至らないと思いますが、

ほんの時たまの時たまの時たま、調子が良くて(もしくはヤケクソで)訪れる

「え、これ自分が書いたの?」な生な言葉が生まれる瞬間は、気持ちいいですよね。

長らくご無沙汰している瞬間です。いかんぞ。

 

生といえばビールですが、1週間の担当が終わったので、

今日はお勧めされたKIRINスプリングバレーのシルクエールを開けたいと思います(缶だから生じゃないけど)。

ありがとうございました。

 

来週は、涼しい顔して魅力の引き出しがたくさんあるある!電通の廣瀬大さんです。

その頭の中をチラ見せいただけるのが楽しみです。

NO
年月日
名前
5834 2024.12.24 小林大 う⚪︎ちのチカラ
5831 2024.12.23 小林大 コピーのチカラ
5827 2024.12.22 都築徹 包丁
5826 2024.12.22 都築徹 東海テレビプロジェクト
5825 2024.12.22 都築徹 競争
  • 年  月から   年  月まで