近所の話-5「日なたの窓に憧れて」
最終日は、近所of近所。(高校生の時に留学させてもらったのに、一切の英語が身につかなかった)
自宅のことを書いておしまいにしようと思う。
私は今、ダスキンさんの「くらしのリズムを整えよう」シリーズの
テレビCMをつくるチームでプランナーをしている。
私の自宅は、このCMの部屋に割と近い。
こちらが勝手に真似しただけなのだが・・。
私はこのCMの監督である吉田善子さんのことを
10年来追いかけてきた。新入社員の頃に1度だけ現場をご一緒して
自分の企画でもなんでもなくただ先輩の横にいただけなのに
私はこの時、吉田さんの虜になった。
企画コンテから演出コンテになる間に吉田さんがつけてくれる
ストーリーが素敵で、監督が人生において大切にしていることが
そこにぎゅっと詰まっているような気がした。
24歳くらいの私は吉田さんみたいな大人になりたいと本気で思った。
そこからの行動が自分でも怖いのだが
「パタゴニアのパーカー」「ノキアの携帯電話」「ミレーのリュック」
「ミナのコート」など、監督が持っていて素敵だったものを色々真似した。
東京と大阪だし、普段会うこともないし、バレないだろう。ぐへへ。
(自責の念にかられ何年も後にご本人に打ち明けたら、すごいですねぇと言っていた。)
でもそれはただ同じものを持ったというだけで、
全くもって吉田さんには近づけなかった。
当時の私は、なぜこれを吉田さんが選んだのかまで考えていなかったから。
そこから10年弱、いつか吉田さんと仕事をすることを目標に仕事した。
並行して吉田さんのつくるCMもずっと追いかけて見てきた。
登場人物の表情も、喋り方も、髪型も、着ている服も、かかっている音楽も、
部屋もお店もロケ先も、テロップさえも、どれも全部好きだった。
そしてついにチャンスが来た。
ダスキンさんのこのお仕事は吉田さんだ!
吉田さんにお願いする意味がある!いけー!
やっぱりこの10年弱の想いは間違いでも勘違いでもなかった。
久しぶりにお会いした吉田さんは、吉田さんだった。
ありがたくシリーズが続いて、もう一緒に13本もCMをつくることができている。
自分もある程度、経験を積んでから見る吉田さんの現場。
あの時は分からなかった何がすごいのかが少しずつ分かって来た。
本当に些細なことを重ねに重ね、強く美しい絵はつくれていて
さらに映るのは目に見えるものだけじゃなくて、そこに流れている空気もそうだ。
登場人物はCMじゃないところでもずっとこの家で生活していて
たまたま切り取った15秒30秒を流しているだけ。
吉田さんの大嫌いな言葉は「ほっこり」。私も「ほっこり」を敵視している。
ほっこりCMで終わらせてなるものかという意地がある。
(女性監督・プランナーというだけで求められがちなほっこりに負けない気持ちを、ほっこり戦争と呼んでいる)
そうか、私が惹かれていたのは、吉田さんの根底にあるロックな精神だ。
外見はナチュラルで美しく、喋るスピードはゆっくりで穏やかだけど
気持ちがすごくまっすぐで強い。凛としていてかっこいい。
(ちなみに背筋もピンとしていて姿勢もすごくいい。)
それは仕事中はもちろん、もう何十回も重ねた食事の中でも、
吉田さんのロックな精神に触れるたび私は毎回感動する。
こんな風な大人になれる可能性が少しでもあるなら頑張れる、と希望がわく。
そして話は冒頭に戻るが、自宅を引っ越すタイミングで、
このダスキンさんのCMみたいな築30年以上の窓がやたらでかい
陽が明るいアパートを選んだ。このCMの制作を通して、くらしのことをこれでもかと
考えたその成果が活かされた住まいになった。
遊びに来た友だちは、私らしい家に住んでいると言ってくれる。自慢のお家だ。
まぁここまで1日中、ずっといる日がくるとは思ってなかったけど。
ちなみに引っ越ししたての昨年夏、ここに吉田さんが来てくれた。
花とケーキをお土産に。うれしかった。
もう2ヶ月ほど会えていない。次会う時は、どんな服を着て行こう、
何の話から始めよう。手土産のお菓子は何にしよう。
会うことを考えただけでウキウキできる人がいる。私はしあわせだ。
(近所の話のコラムは、おしまい。)
石本香緒理さんへ、次のバトンお願いします。
お願いしたい!と直感で思ったのはきっと、
石本さんにも、ほっこりと戦うロックな精神を感じているからかもしれないです。
雰囲気でごまかさない石本さんの書きっぷりに痺れています。
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