銭湯民族の血
六本木などで仕事をしていると、ふと「なんで、私が東京に!?」と思うことがある。札幌から出てきてもう14年も経つというのにだ。田舎臭いというか貧乏くさいというか、これがなかなか治らない。
先週、あるプロジェクトの決起集会の知らせがきた。幹事のメールによると店は寿司屋、場所は銀座らしい。その瞬間、私の中の四谷学院が開講を告げる。「なんで、私がザギンでシースーに!?」。銀座の寿司屋に限らず、有楽町の服屋や表参道の美容室でも四谷学院のチャイムは鳴り響く。
しかし、銭湯ではこれとまったく逆の症状に見舞われる。札幌にはあまりなかったが、東京はほとんどの駅の近くに銭湯がある。そこでちゃぷんと熱い湯船に浸かっていると、ずっと前からこうしていたような気になるのだ。おそらく前世は江戸の町人だったのだろう。
当時の私は、昼前にはびしっと仕事を終わらせる人間だった。多少のミスなんて屁でもない。反省も後悔もない、ゆえに成長もない。帰宅後、残りものの適当な飯で腹ごしらえをして近所の銭湯へ行く。そこで同じようなぐうたらな仲間と合流して、風呂上がりに蕎麦屋などで酒をひっかける。興が乗ってくると神社の周りをうろついて町娘にちょっかいをかけたり、大福を買って境内で食う。そうするとまた汗をかいてきて二度目の銭湯へ。酔いも手伝ってすぐのぼせてしまい、早々に銭湯を後にする。帰路、雲の隙間からのぞく満月が「いいね!」と足元を照らしてくれる。着物の裾をぴしっと合わせて、湯冷めせぬよう早足で月明かりの下を鼻歌交じりで町外れの長屋へと帰ってゆく。
そんな、今とあまり変わらない日々を、前世でも送っていたに違いない。生まれ変わっても、銭湯と酒のある国に生まれたい。そのころにはきっと、東京にいることに驚く癖も治っているだろう。
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