②ロメオと心臓
今回は、最初にやった仕事の話です。
(すみません、コピーについて、ではなくて雑談です)
就職先は福岡の映像プロダクション。
番組やCMなどを作る会社です。
まず、付くことになったのは、九州各地をまわる日曜お昼の旅番組。
その制作進行、アートディレクターでない方のADです。
45分の番組を、片道5時間かかる場所であろうと1泊2日で撮りきる、というトライアスロンみたいな番組だったのですが、
照明が2名、スタイリスト1名、さらにドリーやクレーンなどの特機、撮影車も同行するという、地方のレギュラー番組としては力の入った編成でした。
(会社的にも赤字なので、それらは後に全部割愛されましたが)
撮影車とは、例えば阿蘇の雄大な景色をバックに走る被写体で、言わば「旅のシズル」です。
初回は、車好きのディレクターが高級車ディーラーに頼み込んで借りた、ヴィンテージのコンバーチブル「アルファロメオ・スパイダー」。
映画「卒業」でダスティン・ホフマンが乗っていたイタリアの名車です。
撮影当日の早朝。
準備と緊張で眠れずに来社すると、朝もやの向こうに真っ赤な車が見えてきました。
ですが、どうも変です。
なんというか、左右対称じゃない。
そういう車なのか?
寝ぼけているのか?
朝もやを払いのけて近づいた瞬間、
眠気は寒気に変わりました。
美しい曲線を描いているはずの、右のヘッドライトからドアにかけてがボッコリ凹んでいるのです。
心臓から、4気筒エンジンがフル稼動する音が聞こえてきました。
(続く)
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